共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

 オホーツク沿岸海域の低次生物生産力に及ぼす環境要因の影響の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者／所属 東京農業大学生物産業学部アクアバイオ学科
研究代表者／職名 講師
研究代表者／氏名 朝隈康司

研究分担者／氏名／所属／職名
　
氏　　名
所　　属
職　　名

1

 塩本明弘 東京農業大学アクアバイオ学科 教授

2

 西野康人 東京農業大学アクアバイオ学科 准教授

3

 西岡純 北大低温研 准教授

研究目的 　オホーツク沿岸海域は、オホーツク海の海氷生成時における生態系を含めた物質循環を研究する最適なモデルフィールドとなる。このモデルフィールドを利用して、環オホーツク海域における海氷が生態系や物質循環に果たす役割を明らかにすることを目指す。とくに生態系の出発点である低次生産に関する知見は乏しいことから、低次生物生産力の変動を導く環境要因について明らかにすることが、本研究の目的である。これまでに、海跡湖を中心に調査を行ってきた。本年度より対象地域をオホーツク沿岸海域に拡大する。
　　
研究内容・成果 北海道オホーツク海沿岸域を流れている宗谷暖流水はオホーツク海の生物生産への影響が考えられる。宗谷暖流水の特徴は暖流系の水を引き継いでいるものの、大きさが10μm以上の大型の植物プランクトンの占める割合が高いことが指摘されてきた。宗谷暖流水での大型植物プランクトンの高い寄与を検証することは、オホーツク海の高い生物生産を支えるメカニズムの解明につながる。このため、網走沖（北緯44°10’、東経144°12’）において、2010年の6月〜12月に、表面、5 m、15 mの水を採水し、大きさ（< 2、2-10、> 10 μm）別にクロロフィルa濃度を測定した。トータルクロロフィルa濃度は0.4〜3.4 μg/Lで、8月初旬に最大値がみられた。季節の変化に伴ったパターンはみられなかったが、8月下旬以降には低い値が頻繁にみられた。6月下旬には、小型（< 2μm）のものの割合が高く70％程度を占め、大型（>10μm）のものは20％程度と少なかった。一方、7月初旬〜9月初旬には大型の植物プランクトンが 60〜90%を占めていた。10月初旬以降には大型のものの割合が低く（20〜40％）、小型と中型（2-10μm）のものの占める割合が高かった。小型、中型ともに、それぞれ占める割合は30〜40％であった。以上のことから、盛夏には大型の占める割合が最も高いという結果が得られた。北海道オホーツク海沿岸域の表層においては春季から夏季にかけて宗谷暖流水の勢力が強くなることが知られており、この勢力と大型植物プランクトンの占有率には何らかの関係が示唆される。
一方、オホーツク海への大気ダストからの微量栄養物質の供給過程を解明するため、昨年に引き続き網走市の東京農業大学にローボリュームエアサンプラを設置しエアロゾルを捕集した。小粒子で2月11日から26日の間に1日あたり 33 ng m-3 、大粒子で3月17日から4月5日に3.8 ng m-3 の鉄の含有があった。小粒子は黄砂期以外では、概ね10 ng m-3 以下で変化が少なかったが、大粒子は4月28日から5月10日に47 ng m-3、8月24日から9月3日に32 ng m-3の含有があった。この地域は畑作地帯であり、地域的な土埃の影響が考えられる。秋季の11月1日から26日にも25.7 ng m-3 の含有があり秋黄砂の影響と考えられる。一方、水溶法で計測した水溶鉄と全分解された鉄の比をとると、小粒子では2月11日から26日の3.6 %、4月28日から5月10日の7%、8月9日から24日の7.4 %、11月26日から12月14日の4.8 %が高かった。大粒子では、2月11日から26日の14.7 %と6月14日から29日の7.9 %で高かった。大粒子、小粒子とも春の黄砂期と初夏の耕作期に水溶鉄の含有率が高い傾向にあり、小粒子のみ、収獲期と秋季黄砂期に含有率が高かった。沿岸域における生物生産に関して、耕作など地域的なダストイベントの影響は無視できないと考えられ、今後これらの影響を解析する必要がある。
　　
成果となる論文・学会発表等 An early spring bloom of large diatoms in the ice-covered Saroma-ko Lagoon， Hokkaido， Japan. A. SHIOMOTO， K， ASAKUMA， H. HOON， K. SAKAGUCHI and K. MAEKAWA， Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom， in press
宗谷暖流におけるクロロフィル濃度の経年変化. 津金， 白川， 朝隈， 塩本， 計測自動制御学会， 第18回リモートセンシングフォーラム， pp. 51-52， 2011.