共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

超低過冷却水中で成長する氷結晶周囲の微細な熱拡散場解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 学習院大学計算機センター
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 横山悦郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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古川義純 北大低温研 教授

研究目的 過冷却水から氷結晶が成長する際に、界面から潜熱が発生する。その際に結晶周辺に形成される熱拡散場を光干渉法により観察することは、水の融点近傍での屈折率の温度依存性が非常に小さいことから困難である。しかし重水を使うことによって、その困難を回避することができる。すでに我々は新たに開発した干渉縞解析手法を使って樹枝状氷結晶の干渉縞画像から熱拡散場を可視化している。しかしながら、そこで得られた熱拡散場は結晶成長セル内の光軸方向に沿った温度分布を積算した投影図である。即ち氷結晶周囲の熱拡散場の三次元構造はまだ得られていない。そこで三次元場の復元アルゴリズムを実際の干渉縞画像に適応し、その熱拡散を求める。
  
研究内容・成果 本研究では分担者(古川)が行う過冷却重水中での氷の成長実験を熱拡散場及び成長速度の解析を行った。そこでは2008年12月から2009年2月の期間に国際宇宙ステーション「きぼう」で行われた微小重力下での実験「氷の結晶成長における形態不安定化」のデータ及び地上実験のデータを使った。
ところで、島田・古川の(1997)では、地上実験において過冷却水から氷結晶が成長する際、氷は始め円盤氷として成長し、円盤の厚みが臨界値に達すると一方の底面と他方の底面の大きさが異なる非対称な円錐台形となり、やがて大きな底面の縁にそって優先的な波長が選択される形態の不安定性(マリンズ・セカーカ不安定性)が起こり、6回対称性をもつ樹枝状結晶へと発達すること明らかにしている。また、古川・島田の(1993)では、地上実験において樹枝先端の成長速度は、0.3度以上の過冷却度では理論で予想される普遍則によく一致していることが確かめられている。
しかしながら、宇宙ステーション「きぼう」を使った微小重力下での実験では、地上で観察されたような非対称性パターンの形成は、観察されなかった。そこでは、非対称性パターンの形成の鍵となる臨界の厚みに達するがなかった、または最初から臨界の厚みに達しており、縁の形態不安定性が起こってしまった成長が観察された。 ここで、臨界の厚みに達することがないのは、底面の成長速度が極端に小さかったと解釈される。そこで本研究では、熱拡散場の時間変化だけでなく底面の成長速度を干渉縞の移動速度によって精密測定した。その際、我々が開発した時空間画像による解析処理を使った。
解析の結果、0.1度以下の過冷却度では底面の成長速度は観察時間内では測定できないほど小さい、すなわちゼロであった。これは、底面の成長メカニズムが2次元核形成でステップが生成される場合、底面の過冷却度は核形成の臨界値以下であったと思われる。また0.2度から0.4度の過冷却度の範囲では、底面の成長速度は、過冷却度の2乗に、0.4度から2度までの範囲では、過冷却度に比例する傾向を確かめた。これは、前者ではラセン転位によるスパイラル成長機構、後者は最大成長速度を与える線形成長速度則に従うものと考えられる。詳細な解析には、成長セルの過冷却度ではなく底面の実際の過冷却度を正確に求める必要がある。成長速度が遅い場合は潜熱の発生が小さいため、熱拡散場は十分に発達していない。更に大部分の潜熱は氷結晶内部とガラス毛管内部を伝導している可能性もある。底面の過冷却度を求める課題は、その解決法を現在ところ模索中である。
最後に微小重力下での実験では樹枝先端の成長速度は、0.1度以上の過冷却度では理論で予想される普遍則によく一致していることが確かめられた。
  
成果となる論文・学会発表等