共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

構造化水を介して固液界面の担持された人工脂質膜内での分子拡散挙動のその場観察
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 自然科学研究機構・分子科学研究所
研究代表者/職名 助教
研究代表者/氏名 手老龍吾

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐崎元 北大低温研

研究目的  脂質二重膜は細胞膜の基本骨格であり、膜内の分子拡散やドメイン形成を通じてシグナル伝達などの細胞膜反応のための反応場を提供する役割を担っている。氷点下で生息する動物の細胞膜では脂質膜内の流動性が著しく低下していることが予想されるが、そのような環境下で脂質組成と脂質膜内の構造・分子挙動の関連について調べられた例はほとんどない。本研究では寒冷環境における脂質膜内の脂質分子、また脂質膜上の不凍タンパク質の分子拡散挙動をその場観察することを目的とし、脂質膜モデル系の一つである支持平面脂質二重膜内を用いて、膜内の分子拡散挙動を直接その場観察するための一分子追跡蛍光顕微鏡装置の開発を行った。
  
研究内容・成果  支持平面脂質二重膜(supported planar lipid bilayer; SPLB)中での蛍光標識脂質分子の拡散挙動をその場観察するために、共同研究者である佐崎先生の蛍光顕微鏡装置を利用して射入射照明による蛍光一分子追跡(single molecule tracking; SMT)を行った。通常の全反射条件での励起光入射によるエバネッセント照明では基板材料がガラスか石英に限定されるが、射入射照明法では基板材料の透明度や屈折率に依存せずにSMTを行うことができ、シリコン基板を始め様々な機能構造を持つ酸化物・半導体基板表面上でのSPLBを観察することができる。Si(100)基板上の熱酸化SiO2層(厚さ~100 nm)および単結晶TiO2(100)基板上の単原子ステップ&テラス表面上にベシクル融合法で最も一般的なリン脂質であるdioleoylphosphatidylcholine (DOPC)のSPLBを作製した。SPLBにはあらかじめ4x10-9〜4x10-8の蛍光標識脂質(lissamine rhodamine B-labeled dipalmitoylphosphatidylethanolamine; Rb-DPPE)を混ぜておき、このRb-DPPEがDOPC-SPLB中で拡散する様子をEM-CCDカメラで記録した。拡散の軌跡を座標化し、平均二乗変位()の時間発展を=4Dtでフィッティングすることで拡散係数Dを求めた。SiO2/Si(100)およびTiO2(100)表面上での、8℃での拡散係数はそれぞれ1.52 µm2/s, 1.42 µm2/sであった。従来はガラス表面に限定されていたSMT観察を不透明なSi基板と高屈折率のTiO2基板上で行うことに成功し、固体表面状態が脂質膜内分子拡散挙動に及ぼす影響について詳細に調べるための第一歩として貴重な成果を得ることができた。
 また、佐崎先生のアドバイスをいただきながら、幅広い空間・時間スケールでSMTを行うための新しい蛍光顕微鏡装置の構築にも取り組んだ。広域観察のための均一照明と高速観察のための集光照明の2本の励起光路を備えることで、µm・秒オーダーから100 nm・ミリ秒オーダーまでの分子挙動を捉えることができるようになった。前者では励起レーザー光を対物レンズの後焦点に集光することで視野(25x25 µm2)全体を照明し、最大67 fpsでの観察を行うことができた。後者では、直径~1.5 mmのレーザー光を試料位置で6.5 µmに集光することで、4.77x2.53 µm2の領域を2010 fpsで観察することに成功した。また、試料温度を0℃~30℃で制御できる試料ステージも作製した。SPLB内で微小領域での分子運動がメススケールに伝播する過程とその温度依存性について今後調べていく予定である。
  
成果となる論文・学会発表等 <招待講演>
手老 龍吾,