共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

石油炭化水素の嫌気的微生物分解に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 産総研エネルギー技術研究部門
研究代表者/職名 グループ長
研究代表者/氏名 鷹觜利公

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

佐藤信也 産総研エネルギー技術研究部門 主任研究員

2

福井学 北大低温研

研究目的 石油は多くの生物に対して高い毒性を持つ。環境中に流出した石油は、物理的および化学的な分解の他、現場に存在する炭化水素分解微生物によって生物学的な分解を受ける。微生物による石油分解は酸素の存在する好気条件下でより進行しやすい。しかし、石油で汚染された環境では、好気性微生物の酸素消費によって容易に嫌気条件が形成される。そのため、汚染現場における石油炭化水素分解の全容を把握するためには、嫌気分解メカニズムを解明する必要がある。本研究では、海洋中での嫌気的有機物分解に大きく寄与する硫酸還元菌に注目し、石油炭化水素分解集積培養系の確立と微生物群集構造の解析、さらに石油炭化水素分解微生物の分離を行った。
  
研究内容・成果 東京湾三番瀬干潟の堆積物を接種源とし、原油を唯一の炭素およびエネルギー源とする硫酸還元集積培養系を8℃および28℃で確立した。硫酸還元の生成物である硫化物濃度を経時的に測定したところ、両培養系間で硫化物濃度の増加量が異なり、集積培養系内の微生物群集全体としての原油分解能が培養温度によって異なることが示唆された。また、集積培養系の原油成分をガスクロマトグラフィーにより分析した。その結果、8℃-および28℃-培養系両方で、オルト位に置換基をもつ単環芳香族炭化水素(o-キシレンおよび1-メチル-2-エチルベンゼン)の減少が示された。一方、メタ位に置換基にもつ単環芳香族炭化水素(m-キシレンおよび1-メチル-3-エチルベンゼン)は、28℃-培養系でのみ減少した。パラ位にメチル基をもつp-キシレンは、両集積培養系で減少が認められなかった。
各集積培養系の培養液を接種源とし、p-キシレンを唯一の炭素およびエネルギー源とした硫酸還元集積培養系をそれぞれの温度(8℃、28℃)で確立した。p-キシレンは石油炭化水素の中でも難分解性であり、分解できる硫酸還元菌は未だ分離されていない。培養系内の硫化物濃度は、216日間の培養において8℃-培養系で7.5 mM、28℃-培養系で12.1 mMであり、培養温度によって微生物群集の増殖速度に違いがあることが示された。
次に、確立した全ての集積培養系からDNAを抽出し、全バクテリアを対象とする16S rRNA遺伝子を指標とした解析を行った結果、基質および培養温度によって培養系内の微生物群集が異なることが示された。
確立した8℃-および28℃-p-キシレン分解集積培養系から、石油炭化水素分解菌の分離を試み、新規硫酸還元菌3株を分離した。8℃-培養系から分離した8aA2株および28℃-培養系から分離した28bB2T株を用い、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、n-ヘキサンについて炭化水素利用性を調べた。8aA2株は試した全ての炭化水素を分解しなかった一方で、28bB2T株はトルエンのみを分解した。さらに、28bB2T株のトルエン培養系内の硫化物およびトルエン濃度を測定したところ、硫酸還元に共役したトルエン分解が確認された。28bB2T株の16S rRNA遺伝子配列を決定し、系統解析を行った結果、o-キシレン分解硫酸還元菌であるDesulfosarcina ovataに最も近縁だった。
本研究により、硫酸還元微生物群集の炭化水素分解能および群集構造が、培養温度によって異なることが示唆された。また、28℃-培養系から分離した28bB2T株は、新種の炭化水素分解硫酸還元菌であり、集積培養系において炭化水素分解の重要な役割を果たしていると考えられる。
  
成果となる論文・学会発表等