共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
サトイモ科植物が送粉者への報酬として分泌する新規物質の同定 |
新規・継続の別 | 継続(平成20年度から) |
研究代表者/所属 | 長崎大学熱帯医学研究所 |
研究代表者/職名 | 助教 |
研究代表者/氏名 | 高野宏平 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
片桐千仭 | 北大低温研 | 助教 |
2 |
戸田正憲 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | タロイモショウジョウバエとサトイモ科植物の間には緊密な送粉共生関係が知られ、ハエは宿主植物上で一生のほとんどを過ごすが、ハエ成虫が何を食べているのかはいままで不明であった。2007年5月にクワズイモを観察したところ、雄花部と中性花部においてハエの採餌行動が観察された。そこで本研究では、タロイモショウジョウバエがクワズイモから採餌する物質の同定を目的とした。 |
研究内容・成果 | 2008年度の研究では、野外から採集し一時的に宿主植物上で飼育したハエのクロップ(一時的に食物を貯留する器官)の内容物を出発物質とした。ただし1頭あたりのクロップ内容物の体積は1μℓ以下であるため、複数個体分のクロップ内容物をそのまま薄層クロマトグラフィーに添加し分析に供した。アセトンと水の混合溶液で展開した各種呈色試薬を試した結果、内容物は複数の物質群(スポット)から構成されており、特にニンヒドリン反応が顕著であった。また、クワズイモの花の抽出液からも、ハエのクロップ内容物に対応する物質群の存在を認めた。 2009年度は琉球大学キャンパスに自生するクワズイモを対象にフィールド調査を行った。花序の各部(付属体・雄花部・中性花部・雌花部)を人工着色料で塗り分けてハエに採餌させ、それらのハエを解剖して消化管を確認することによって、ハエは雄花部と中性花部から採餌していることを再確認した。さらに、中性花から粘度の高い透明な液が分泌されていること、それは舐めると甘いことが確認された。Neutral Red(中性赤)10,000倍希釈溶液に花序全体を浸漬すると中性花が集中的に染色され、実態顕微鏡で観察すると中性花の中空部には密腺と推定される顆粒が集中的に分布していることが確認された。中性花からの分泌物を70%エタノールに保存し-20°Cで低温研に輸送したものを二次元薄層クロマトグラフィーで展開しニンヒドリンで検出すると、分泌物(あるいは中性花を溶媒に浸漬した抽出液)にはシステイン・グルタミン・グルタミン酸・アスパラギン・アスパラギン酸・アラニン・セリンなどのアミノ酸標準液と同じ移動度を示すスポットが確認できた。また、オルシノール硫酸による検出ではショ糖・果糖の標準液と同じ移動度を示すスポットも確認された。アミノ酸と単純な糖は一般的に知られている花密の主成分であることから、クワズイモの中性花分泌物は典型的な花密であると考えられた。 サトイモ科植物の中性花部(不稔雄蘂群)の役割としては、1)雄花よりも花序下部にある雌花に花粉が掛からないように仏炎苞が物理的に遮断(自家受粉を避けるために雄花と雌花を異所的に隔離)する際の分離帯、2)植食性昆虫などが送粉者である場合に不稔雄蘂(あるいは不稔雌蘂)の植物組織自体が餌(報酬)となると考えられてきた。これらの説明はおそらく中性花部上部の不稔雄蘂にはそのまま当てはまるが、本研究の結果を総合すると、中性花部下部の不稔雄蘂は、送粉者に花蜜を提供する報酬器官として働いていると考えられた。これは著者らが知る限りサトイモ科タロイモ連からの花蜜の初めての報告であると共に、不稔雄蘂の機能に関する新しい解釈である。 一方、現在のところ雄花部からハエが採餌している物質を分離して採集することはできておらずその特定には至っていないことから、その解明が課題として残された。 |
成果となる論文・学会発表等 |
高野(竹中)宏平.サトイモ科植物とタロイモショウジョウバエの送粉共生:特にクワズイモが送粉者に提供する報酬(餌物質)について.第479回三学会合同長崎地区例会(口頭発表).2009年12月19日(長崎大学) 高野(竹中)宏平.果実序内のファイトテルマータで繁殖する送粉共生者.第57回日本生態学会大会(自由集会).2010年3月15日(東京大学) 高野(竹中)宏平,片桐千仭,屋富祖昌子,戸田正憲.クワズイモ(サトイモ科)の中性花は送粉者への報酬器官であった:開花時には花蜜を分泌し開花後には腐って幼虫の餌となる.第57回日本生態学会大会(口頭発表).2010年3月16日(東京大学) |