共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

極地雪氷コアの金属測定による気候変動解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 山形大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 鈴木利孝

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

藤井理行 国立極地研究所 教授

2

本山秀明 国立極地研究所 教授

3

平林幹啓 国立極地研究所 特任研究員

4

飯塚芳徳 北大低温研

研究目的 雪氷中には地殻物質や火山灰などがエアロゾルとして供給され、それらの多くは難溶性粒状物として存在している。したがって、雪氷中粒状物の濃度や化学組成を明らかにすることにより、陸面から雪氷圏へのエアロゾルの負荷量や供給源に関する情報を得ることができる。本研究では、極地雪氷コア中の金属成分全濃度、個別粒子化学組成およびSr・Nd同位体比を測定し、気候変動に伴う極地へのエアロゾルの負荷量とその供給源の変動を明らかにすることを目的とした。
  
研究内容・成果 本年度は、1995~96 年に南極ドームふじ基地において採取された、過去340kyrの気候変動記録を有する第1期ドームふじ深層氷コアのうち、急激な温暖化を示すターミネーションI(10~25kyrBP)およびII(130~145kyrBP)の期間の高時間分解能解析を行った。具体的には、1000年程度の時間スケールにおけるエアロゾルと気候変動の関係をより高い時間分解能で詳細に明らかにすることを目指し、該当深度のコア中金属成分濃度を、2〜4年の時間分解能で測定した。ドームふじコアにおける終末期該当深度にある3つの区間から、厚さ2cmの氷片を連続して10試料程度分取した。試料中の粒状物を全て回収し溶液化するため、汚染除去後の氷片全てを融解・蒸発乾固させた後、残渣を硝酸とフッ化水素酸を用いたマイクロ波分解法で全分解した。得られた溶液のFe、Al、Mn、Sr、Ba、Na をICPMS で測定、Mg、Ca をICPAES で測定し、コア中全濃度を得た。復元された鉱物および海塩エアロゾルフラックスのターミネーションIおよびIIの期間内における変動係数は4~36%となり、気候変動に伴うフラックス変動(48~67%)に比べて概ね1桁ほど小さかった。また、これまでの共同研究で得られている、ドームふじコア34万年の金属濃度変動において2点だけ観測された鉄・マンガン異常濃縮は、本研究で解析した区間が、それが観測された区間の近傍であったにも関わらず観測されなかった。δ18O値と鉱物・海塩エアロゾルフラックスを比較解析したところ、温暖期においては、鉱物エアロゾルフラックスは絶対値、変動ともに小さいが、海塩エアロゾルフラックスは大きく変動することがわかった。これらのことから、ドームふじへの鉱物エアロゾル輸送は気候変動に伴う供給源強度変化の影響が大きい一方、海塩エアロゾル輸送は、気候変動による変化に加えて、ローカルな気象変化の影響も有意であることがわかった。なお、粒子化学組成およびSr・Nd同位体比については、現在解析中である。
  
成果となる論文・学会発表等 Suzuki, T., K. Matsushima, Y. Iizuka, M. Hirabayashi, H. Motoyama and Y. Fujii, Total concentration of metallic elements in Dome Fuji ice core, The 2nd International Symposium on the Dome Fuji ice core and related topics, Tokyo, 2009.
松嶋克成, 佐藤弘康, 鈴木利孝, 飯塚芳徳, 平林幹啓, 本山秀明, 藤井理行, ドームふじ氷コアから探る気候変動とエアロゾル化学風化の関係, 第32回極域気水圏シンポジウム, 国立極地研究所, 東京, 2009.
油井紗瑛子, 鈴木利孝, 飯塚芳徳, 平林幹啓, 本山秀明, 藤井理行
南極ドームふじ浅層コアの金属測定による大気古環境解析, 第32回極域気水圏シンポジウム, 国立極地研究所, 東京, 2009.
鈴木利孝, ドームふじ深層コア中の金属全濃度, 北海道大学低温科学研究所研究集会「氷床コアによる古気候・古環境復元の高度化研究」, 北海道大学低温科学研究所, 札幌, 2009.