共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

オホーツク沿岸海跡湖の低次生物生産力に及ぼす環境要因の影響の解明
新規・継続の別 継続(平成20年度から)
研究代表者/所属 東京農業大学生物産業学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 塩本明弘

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

西野康人 東京農業大学生物産業学部アクアバイオ学科 准教授

2

朝隈康司 東京農業大学生物産業学部アクアバイオ学科 講師

3

西岡純 北大低温研

研究目的 オホーツク沿岸には多くの海跡湖が見られ、独自の生態系を有するとともに、湖の生態系のもつ生物生産力が地域産業の基幹である水産業を支えている。しかしながら、生態系の出発点である低次生産に関する知見は乏しい。地球環境が変化した場合、低次生産力におよぼす影響を予測することは生態系の保全はもちろん地域産業の振興面からも重要である。そこで、低次生物生産力の変動を導く環境要因について明らかにすることが、本研究の目的である。オホーツク沿岸の海跡湖をモデルフィールドとして、環オホーツク海域における海氷の生態系や物質循環に果たす役割を明らかにすることを目指す。
  
研究内容・成果 サロマ湖での全面結氷期間は1960年代では100日程度であったが、地球温暖化の影響を受けて現在では60〜80日程度となり、1990年以降は全面結氷しない年も頻繁にみられるようになってきた。2009年の冬季も全面結氷が起こらず、湖面の半分程度までしか結氷しなかった。そこで、結氷せずに湖面が現われている場所(第一湖口の近く、水深15m程度)に調査点を設けて、2月16日、3月18日、4月17日において水中のクロロフィルa濃度を<2μm、2-10μm、>10μmの3つのサイズに分けて測定した。また、植物プランクトンの種組成や栄養塩類の濃度についても測定した。本調査での結果は地球温暖化の進行に伴い湖面が全面結氷しなくなると、冬季にどのようなことが植物プランクトンに起こるかを知るうえで貴重な資料となる。
表層のクロロフィルaの総濃度(3つのサイズの濃度の和)は2月16日において4μg/Lであった。過去の研究から、全面結氷した時の氷下水中のクロロフィルa総濃度は0.5μg/Lであり、春季の融氷時には植物プランクトンのブルームが起こり、クロロフィルa濃度で10〜20μg/Lとなることが報告されている。本研究結果と過去の研究結果から、2月の調査時においては植物プランクトンのブルームが起こっていたと考えられる。3月にはクロロフィルaの総濃度が10μg/L程度となり、4月においても同程度の濃度がみられた。2009年の冬季においては、植物プランクトンのブルームが2月の中旬に起こり4月の中旬まで続いていた。さらに、いずれの調査時でも、>10μmの大型植物プランクトンがクロロフィルa総濃度の60〜95%を占めていた。また、細胞数の100%近くは珪藻類が占めていた。2月ではTalassiosira属が90%を占めていたが、3月では35%となり、Cheatoceros属が50%を占めていた。4月にはCheatoceros属がほぼ100%を占めていた。2009年冬季から春季のブルームを支えているのは大型の珪藻類であり、ブルームの進行に伴い優占種が遷移することが示された。
結氷、積雪状態での氷直下の水中の光はわずか数%であり、水中の植物プランクトンにとっては好ましい光環境ではない。結氷しなければ水中に入射する光の量は著しく増加することとなり、水中の植物プランクトンにとっての光環境は大きく改善する。光環境の改善が2009年冬季から春季のブルームを引き起こした主たる要因と考えられる。一方、このブルームは4月中旬まで続いたが、表層の栄養塩(とくに硝酸塩)は3月の調査時に枯渇状態となっていた。下層からの供給が、この継続に大きな役割を果たしたのではなかろうか。
北海道の噴火湾ではTalassiosira属からCheatoceros属への遷移も報告されている。2009年冬季から春季のブルームで特別な種が冬季に増えているわけではないと考えられる。冬季に結氷する湖沼では地球温暖化の影響を受けて結氷しなくなると、冬季に春季ブルームの前倒しが起こる可能性が高いと思われる。
  
成果となる論文・学会発表等 オホーツク沿岸能取湖の結氷期における生物生産におよぼす海氷の影響に関する研究-クロロフィルaと栄養塩の分布特性-.西野康人、佐藤智希、谷口旭.2009年日本ベントス学会・日本プランクトン学会合同大会講演要旨集,20, 2009.
サロマ湖の基礎生産と温暖化.塩本明弘.「氷海域の技術と持続可能な地域づくり」サロマ湖シンポジウム,平成22年1月,佐呂間町.
サロマ湖における結氷状況の把握. 林一真、 津金哲也、 朝隈康司、 塩本明弘.(社) 計測自動制御学会, 第17回リモートセンシングフォーラム, pp. 27-28,2010.