共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

凍結融解による斜面物質移動プロセスの実験的研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 埼玉大学地圏科学研究センター
研究代表者/職名 非常勤研究員
研究代表者/氏名 瀬戸真之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

田村俊和 立正大学 教授

2

須江彬人 立正大学大学院  院生 

3

澤田結基  産業総合研究所 研究員

4

曽根敏雄 北大低温研 助教

研究目的 森林限界以下の低標高な山地斜面では周氷河性物質移動が十分に起こりうるポテンシャルを持ちつつも,植生によって地表が覆われているために通常は周氷河性の物質移動プロセスが活発に起こることは少ない.しかし,強風や人為の影響により植生が破壊されると季節的凍土が出現したり,周氷河性のマスムーブメントが卓越するようになり,いわゆる高山環境と良く似た景観を呈するようになる.そこで本研究では,実験斜面を凍結・融解させて礫の移動を観測したい.本研究により周氷河作用と非周氷河作用の両作用が複合した物質移動プロセスの解明が期待される.
  
研究内容・成果 ここでは主としてEx3の実験結果を報告する.Ex3では箱Aを15度、箱Bを10度傾斜させて実験斜面とした.室温を-10℃から+5℃まで変化させて実験斜面の土壌試料を凍結融解させた.実験斜面には径15cm程度,厚さ2cm程度の扁平礫を4個置いた.凍結開始は2008年9月20日13時,融解開始が2008年9月22日18時で,融解完了が2008年9月25日19時である.実験斜面の凍上(礫の垂直移動)は凍結開始直後に始まり,9月21日頃ピークを迎えている.水平移動量は凍上が終わり,霜柱が崩壊するときにピークを迎えた.その時期は9月24日頃である.一方,地温の観測結果は9月22日の夜に最低値を記録している.垂直移動量の最大よりも水平移動量が最大になる時期が遅れることからも,礫の移動は霜柱クリープによることが明瞭である.箱Aの平均凍上量は1.0cm,平均水平移動量は1.1cmで箱Bの平均凍上量は0.7cm,平均水平移動量は0.1cmであった.移動量の大きな差には,箱の傾斜のみならず,箱Aでは霜柱が成長し凍上した一方で箱Bでは霜柱がほとんど成長しなかったことが影響している.これには土層中のアイスレンズの成長が関与していると考えられる.
Ex1からEx13では傾斜と凍上量から算出される霜柱クリープによる礫の移動量よりも大きな移動量が観測された.したがって,実験斜面では霜柱クリープが認められるものの,礫の移動量はそれのみでは説明できないことが明らかである.
 Ex14では凍結時に積雪を模した細かい氷で実験斜面全体を厚さ約1cm程度に覆った.この実験では室温を-10℃から+5℃まで変化させ,傾斜は箱A,B共に15度とした.この結果,融解時に地表面付近の土壌が水分で飽和し,マッドフローが発生した.このマッドフローにより礫は大きく移動し,斜面傾斜方向に最大で63.8mmの移動を計測した.この結果は御霊櫃峠において鈴木ほか(1985)が報告した観察と良く似ている.このことから,御霊櫃峠のような低標高の斜面では凍結・融解サイクルに起因する霜柱クリープのようなプロセスと,積雪の融解によるマッドフローなど地表面を流れる水が関与したプロセスとが複合して,礫を移動させていると考えられる.
  
成果となる論文・学会発表等 (論文)
瀬戸真之・須江彬人・澤田結基・曽根敏雄・田村俊和(2010):凍結融解サ イクルによる地表面物質移動の実験的研究,地球環境研究,印刷中.

(学会発表)
Masayuki SETO, Yuki SAWADA, Toshio SONE, Toshikazu TAMURA  
 (2010):Freeze-thaw Stone Migration on a Temperate Low Mountain  
 Peak and in a Laboratory,7th international confernce on
 geomorphology,Melbourne,Australia.

瀬戸真之・須江彬人・澤田結基・曽根敏雄・田村俊和(2009):地表面の凍 結融解にともなう礫の移動に関する実験.2009年度日本地理学会秋季学術 大会.