共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

帰化種の侵入地における環境適応について
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 九州大学理学研究院生物科学部門
研究代表者/職名 特任助教
研究代表者/氏名 三村真紀子

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原 登志彦 北大低温研

2

隅田明洋 北大低温研

3

小野清美 北大低温研

研究目的 外来種は、意図的・非意図的に新しい土地に導入され、導入地においては、原産地にはない生物学的・非生物学的環境要因の組み合わせにさらされていると考えられる。これまで、外来種が分布域を広げ侵入種となる過程においては、天敵の不在や栄養繁殖などの繁殖能力に大きく依存すると考えられてきた。しかし、広い分布域を拡大した侵入種は、どのようにして分布域内のさまざまな環境要因の違いに応答しているのだろうか?本研究では、自家不和合性セイヨウミヤコグサを対象とし、自生地と導入地の集団を対象とし、導入ソースと形質的分化を調べ、侵入種の侵入地における適応進化について解明することを目的とした。
  
研究内容・成果 外来種のうち侵入種となるものは、導入区域から流出し、野生下において自立した集団を確立し、集団サイズを拡大させる。自家不和合性をもつ種では、侵入地における集団の確立に多くの他個体を必要とする。本研究では、自家不和合性セイヨウミヤコグサ(欧州原産)を材料として、日本の各地に分布する侵入種の遺伝的多様性と侵入地内の異なる環境への適応能力を明らかにすることを目的とし、以下の疑問に答えるために、分子解析と生育的特性解析をおこなった。
(1) 導入ソースは、同一か複数か?
侵入地(日本)および自生地(欧州)集団および栽培育種系統の個体系175個体を葉緑体DNA遺伝子間領域における遺伝的変異を解析したところ、侵入地は自生地にくらべて、やや低い多様性をもつものの、栽培系統特異的な系統と自生地集団に特異的な系統の両方を維持しており、複数のソースから導入が行われたと考えられた。また、侵入集団を形成する個体は、栽培育種系統由来のものが多いことが示唆された。
(2) 侵入地においては、自生地にくらべて生育が旺盛か?
侵入地集団、自生地集団、栽培系統間で、ばらつきのあるものの、平均して、侵入地集団のほうが、バイオマスが高く、地下部に比べて地上部の生育が旺盛である傾向があった(統計的に有意)。また、1年目で開花する個体が、侵入地集団において多い傾向にあった。
(3) 侵入地内での、適応分化は起こっているか?
緯度を非生物学的環境要因の指標として用い、侵入地集団および自生地集団の形質特性を解析したところ、バイオマスや地上部の割合などにおいて、有意な関係性がみられた。これらは、緯度に沿った選択圧の変化に適応分化していることを示唆する。しかし、侵入地集団と自生地集団との間では、緯度に対する応答が異なっており、侵入集団の進化を明らかにするためには、さらに形質の緯度に沿った勾配に関わる選択要因の解明が必要とされる。

結論として、侵入集団は集団内の多様性を保持しており、原産地の集団に比べて高い生育がみられた。これら一部の形質は、緯度に呼応しており、侵入地での急速な適応進化が示唆された。 今後、各集団において環境に応答する形質をより詳細に解析することで、侵入集団が新しい土地における選択圧に応答しながら分布域を拡大していくメカニズムを明らかにすることが期待される。
  
成果となる論文・学会発表等 【学会発表】
三村真紀子・原 登志彦・五箇公一 侵入地および原産地におけるセイヨウミヤコグサの遺伝的および形質的分化 第57回日本生態学会東京大会2010年3月15日-20日、東京