共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

南極湖沼における微生物間相互作用の研究〜特に硫黄代謝に注目して〜
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 玉川大学学術研究所
研究代表者/職名 特別研究員
研究代表者/氏名 小泉嘉一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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小島久弥 北大低温研

研究目的 地球史において氷期と間氷期は数万〜十万年の周期で繰り返し起こることが知られている。こうした気候変動は海面水位の変化を引き起こし、海岸線の前進後退をもたらす。沿岸部に存在する湖沼は海洋と繋がったり切り離されたりすることで、淡水化したり海水化したりする。このような変化はそこに生息する生物群集構造に反映されると考えられる。こうしたプロセスを解明する手がかりとして底泥堆積物中に過去の状況が記録されていることが期待できる。本研究の目的は南極大陸沿岸に存在する様々なタイプの湖沼(淡水、海水、高塩濃度、部分循環)において採取された水および底泥試料を用いて細菌群集構造解析を分子生物学的手法により行う事である。
  
研究内容・成果 宗谷海岸沿いに位置する4つの地域(ラングホブデ(ぬるめ池(Nu)、雪鳥池(Yd))、スカルブスネス(船底池(Fu)、親子池(Ok)、長池(Ng)、あび池(Abi)、すりばち池(Sr))、スカーレン(大池(Sk))、ルンドボークスヘッタ(丸湾大池(MO)、丸湾南池(MM)))から採取された水および底泥堆積物試料中の細菌群集構造を16S rRNA遺伝子を対象としたPCR-変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)によって解析した。このうちMOは底泥堆積物のみ、Nu・Sr・Ydは水試料のみの解析を行った。得られたバンドパターンを画像解析ソフトウエア(BioNumerics, Applied Maths)により解析し、深度ごとにプロファイリングを行った。
PCRにおいて増幅が認められないサンプルが多く見られたため、PCR阻害物質の影響を抑制するAmpdirect® Plus(Shimadzu)を使用した。その結果、すべてのサンプルにおいて増幅が認められ、多くのバンドが観察されるようになり、今までよりマイナーな細菌種まで解析することが可能になった。
それぞれの池における水柱のDGGE垂直プロファイルの結果から、その池が躍層しているか否か明らかに判断することができた。特にSrは酸化還元境界層のある9-10 mで大きく変化が観察された。全ての池の水サンプルのDGGEバンドパターンをデンシトグラム化し、UPGMAに基づくクラスター解析するとYd, Ok, Ng, Abiは80%以上の相同性でクラスターを形成した。Ydを除く他の池はスカルブスネス内でもお互いに距離が近く、細菌群集の類似性の一因になっているかも知れない。Nuは他の池と比べて30%以下と相同性が低く特徴的な細菌群集が発達している可能性が高い。この先、主なバンドのシークエンス解析を進め、細菌種の相違性を見いだし、池の物理化学的特性と合わせて特徴付けをしていく予定である。
一方、底泥堆積物では、深度によって大きくクラスターが分かれる池があった(Sk, MO, Fu)。このような池においては、その深度に対応する年代に気候変動に伴う海水面変化によって淡水化または海水化が進んだ可能性がある。いくつかの主なバンドのシークエンスを解析した結果、深い層から珪藻の葉緑体や硫黄酸化を行う光合成細菌に由来するDNAが確認された。光合成生物が堆積物中で生育しているとは考えづらく、古環境を反映している可能性が高い。また、堆積物のDGGEパターン解析をした結果、水柱よりもより地理的な遠近を反映している結果が得られた。特に、Ng, Ok, Abiは水柱、堆積物共にクラスター解析の結果が似ており、お互いのクラスターの相同性が80%以上と高かった。
この先、このような古環境細菌群集構造解析と地質学的アプローチを融合させることによって、気候変動の新たな裏付けとなることが期待される。
  
成果となる論文・学会発表等