共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

冬季休眠の場としての繭の構造と透湿性
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 大阪大学大学院理学研究科
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 金子文俊

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川口辰也 大阪大学大学院理学研究科 助教

2

片桐千仭 北大低温研

3

古川義純 北大低温研

研究目的 熱帯が起源と考えられている昆虫は、様々な環境への適応戦略をとることでその生息域を寒冷な地域へも広げてきた。変温動物である昆虫が寒冷な気候に適応するための一つの手段に、休眠がある。この休眠の期間に、昆虫は冬季の乾燥状態から自身を守っていかなければならない。休眠を蛹としておこなう鱗翅目昆虫のいくつかは、幼虫が蛹へ変態する前に絹糸を吐いて繭を形成する。休眠状態の蛹を外界から保護する役割をもつ繭は、乾燥から蛹を保護する役割を担うと考えられている。本研究では、この繭の透湿性を定量的に評価するシステムと構築し、それをもとに昆虫の繭の透湿性の比較をおこなうことを目的としている。 
  
研究内容・成果  繭の透湿性を定量的に評価するためには、信頼性のある測定法を開発することが必要である。これまでは生体小組織の水蒸気透過性を簡便に測定する手法がなかったが、平成20年度の低温研との共同研究において、私たちは窒素気流中におかれた試料の重量変化を高感度に測定する熱重量分析(TGA)装置の機能に着目し、これを利用した生体関連小試料の透湿性を簡便に評価するための手法を開発した。この手法を用いると、1mm2程度の面積の試料についても透湿性を測定することが可能である。しかし、本年度子細に検討していくと、TGAを利用した測定システムは本質的には問題がないものの、生態関連の小試料を保持する機構に問題があり、そのために、繭の透湿性の測定結果の再現性と信頼性が損なわれていることが明らかになった。
 この問題点を克服するために、これまで接着剤と真空グリースにより試料を保持していたやり方を根本的に見直すことした。試料に浸透する可能性のある物質を用いない方法を開発することを試みた。中心部に穴が空いた二枚の円形のアルミ板の間に、透湿性が極めて低いブチルゴムを介して試料片を固定する手法を開発し測定を試みたところ、十分再現性が得られることが明らかになり、これを標準的な測定手法をして繭の透湿性を測定できるようになった。
 この試料固定法の特長として、
1) これまでの手法のように、高真空用シリコングリースや接着剤による試料の汚染を防ぐことができる、
2) 試料の固定に要する時間がかなり短縮される、
3) 測定に用いた試料の保存が容易である、
4) 同じ試料を利用して再測定が可能である、
5) 従って同一試料を用いての長期における経時的な変化を追うことができる、
が挙げられる。
 今回、家蚕、野蚕などの繭の透湿性を調べて、種や品種によりどのような違いが見られるかを調べた。屋外で飼育されている野蚕の天蚕や柞蚕の繭はいずれも比較的小さな透湿性を示すが、家蚕の繭は品種の違いによって透湿性が大小著しく変化することが分かった。また、共に大型の蛾である野蚕の天蚕と柞蚕はほぼ同じ大きさの大型の繭を作るが、冬期に繭で休眠する柞蚕の繭の透湿性は夏期に結繭する天蚕の繭よりも低いと言う結果が得られた。また家蚕の繭の透湿性について検討した結果、本来低透湿性の繭であったものが人為的な選別の結果、高透湿性の繭をつくる品種が現れたという結論が得られた。



  
成果となる論文・学会発表等 学会発表 2件 


2009.10.12 昆虫学会 三重県津市 三重大学
熱重量分析法を用いた繭の透湿度測定
○金子文俊(阪大理学研究科)・片桐千仭(北大低温研)・
  伴野豊(九大農学院)白井孝治(信州大繊維)


2010.4.3-4 日本蚕糸学会 長野県上田市 信州大学繊維学部
熱重量分析法を用いた繭の透湿性測定
○金子文俊(阪大理学研究科)・片桐千仭(北大低温研)・
  伴野豊(九大農学院)白井孝治(信州大繊維)