共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ウミアメンボ類を含むアメンボ科昆虫の休眠、温度耐性、浸透圧耐性と脂質
新規・継続の別 継続(平成20年度から)
研究代表者/所属 高知大学教育研究部教育学部門環境生理学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 原田哲夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

竹中志保 高知大学大学院総合人間自然科学研究科 大学院生修士2年

2

横田美香 高知大学大学院総合人間自然科学研究科 大学院生修士2年

3

片桐千仭 北大低温研

研究目的 アメンボ科の昆虫(Gerridae)は水面で生活するカメムシ類の仲間である。世界に約560種の棲息が確認されているが、そのうち約70種類が海水に進出したウミアメンボ類である。ここ2,3年は外洋性ウミアメンボ類について、太平洋・インド洋の赤道付近に生息する個体群と黒潮域に生息する個体群の高温耐性と海洋動態の関係についての研究を研究船(淡青丸、白鳳丸、みらい)の共同利用により積極的に進めている。一方低温研究所は、昆虫の越冬と脂質(トリアシルグリセロール、リン脂質、炭水化物)との密接な関係について長年研究を蓄積してこられた。本研究は温度耐性に、脂質がどのように関与しているのかを明らかにすることを主目的とする。
高温亜麻痺状態のツヤウミアメンボ 動きが止まっている  
研究内容・成果 1.外洋棲ウミアメンボにおける高温耐性と過冷却点(Super Cooling   
  Point)の相関関係について
 西部熱帯太平洋(0-10°N, 147-156°E)と黒潮流域(30-34°N, 129-140°E)の2つの生息域で、ウミアメンボの高温耐性と過冷却点(Super cooling point: SCP, 低温耐性の指標)を比較し、高温耐性と過冷却点の相関を分析した。2つの調査海域共に、高温麻痺までの温度変化閾値とSCPの間に有意な負の相関関係があった(Pearson’s correlation test, 黒潮圏[KT-09-20航海]:r= -0.41, p<0.001, 左図; 西部熱帯太平洋域[MR-09-04航海]:r=-0.26, p= 0.001,右図)が、黒潮域でより強い相関がみられた。西部熱帯太平洋域の個体群のSCP値(Mean±SD=-18.4±2.0)は黒潮域個体群の値より有意に低かった(Mean±SD=-12.8±4.4) (Mann-Whitney U-test: z=-10.04, p<0.001)が、高温耐性には2海域間で有意差はなかった。中緯度に位置する黒潮域で低温耐性と高温耐性のより強い相関関係が見られた。交差耐性は高温耐性と低温耐性の間に共通のメカニズムがあることを暗示するが、黒潮域のより激しい温度変動がより明確な “共通メカニズム”を自然選択したのかもしれない。西部熱帯太平洋個体群が低いSCPを示したのは、調査海域が陸から大きく離れ、陸水の影響を受けない(海水塩分濃度が高い)ことと関係する(体液高浸透圧説)可能性がある。

2.外洋棲ウミアメンボ類(Halobates micans, H.germanus, H.sericeus)の  脂質の構成と高温耐性
 ウミアメンボを含む昆虫は、エネルギーの貯蔵および細胞膜の構成単位として、脂質を利用する。中でも基礎代謝のエネルギー源として主に利用しているのがトリアシルグリセロールであり、生体膜の主要な構成員であるのがリン脂質である。これらの脂肪酸の不飽和度が細胞膜の流動性に関係する(片桐、2008)。海洋地球研究船みらい航海(MR-08-02)乗船中に行われた、ウミアメンボ類を対象とした、高温麻痺実験の結果とみらい航海後に持ち帰ったウミアメンボ個体のアルコール標本をガスクロマトグラフィーを中心的手法として脂質分析を行った。中性脂質(トリアシルグリセロール等を含む)14:0と16:1のわずか2種類の中性脂肪でのみ、高温耐性が高まる
ほど、飽和脂肪酸の割合が減り、不飽和脂肪酸が増える傾向があった。ウミアメンボ体内における何らかの機能性構造物(脂肪酸含有)の柔軟性と不飽和脂肪酸の割合との間に正の相関が疑われる。しかし、高温耐性のメカニズムにおける脂肪酸の飽和度の役割については不明である。

 本研究結果から、脂質の不飽和度が高温耐性に何らかの関与をしている可能性が暗示されたが、脂質の高温耐性への役割については、更なる基礎研究の追加が必要である。

 
高温亜麻痺状態のツヤウミアメンボ 動きが止まっている  
成果となる論文・学会発表等 ˚原田哲夫、関本岳朗、大角裕貴、竹中志保、片桐千仭 西部熱帯太平洋及 び東部熱帯 インド洋に棲息するツヤウミアメンボの高温耐性 第53回日本 応用動物昆虫学会大会 日時:2009年3月28日〜30日 場所:北海道大学  口頭発表