共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

人工衛星資料による南極氷床モニタリングと淡水収支の評価
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 (財)リモート・センシング技術センター
研究代表者/職名 副主任研究員
研究代表者/氏名 山之口勤

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

土井浩一郎 国立極地研究所 准教授

2

青木茂 北大低温研 准教授

3

杉山慎 北大低温研 講師

4

飯塚芳徳 北大低温研 助教

研究目的 近年、西南極を中心とする氷床の急激な変動が明らかになる一方で、南極氷床の質量収支は現在の海水準変動および海洋深層循環を通した気候変動への影響を解明する上で、もっとも現状把握の遅れている課題である。本研究は、人工衛星観測資料を用いて、変化の激しい地域の氷床の形状、接地線(grounding line)、氷山等の分布を継続的に調べることにより、氷床の質量収支、海洋への淡水供給の変動の把握を目的とする。
  
研究内容・成果 昭和基地周辺の東南極域は,急激な棚氷の崩壊・減少がすすむ西南極域と異なり,一見激しい変化をみせていないように見受けられる.本研究では,こうした東南極域において,約13年前に観測されたLützow-Holm湾付近のJERS-1/SARデータと,2008年に観測されたALOS/PALSARデータを用いて,湾内における棚氷の変動状況について解析を実施した.また,平面的な棚氷の変化に加え,NASAにより運用されているICESat衛星搭載のレーザー高度計GLASのデータを用い,現状での棚氷の厚さの把握について予備的な調査を行った.
棚氷の面積抽出解析では,まずはじめに1995年1月〜9月に撮像されたJERS-1/SARデータを18シーン用いて,Lützow-Holm湾奥部の白瀬氷河河口部から西側,Riiser-Larsen半島東側の領域についてのモザイク画像を作成した.次に,2008年8月に観測されたALOS/PALSARのScanSAR画像を近年の画像とし,これら2つの画像間での棚氷領域の変化抽出を行い,衛星資料の利用可能性と妥当性について検討した.
解析の結果,定性的には容易に棚氷の変化を判読することができた.具体的には,棚氷内に多くのクラックが増えていることや,開水面とおぼしき領域が増えていること,茅氷河の氷舌が前進してきていること等が判読可能であった.さらに,50kmx20km程度の大きな棚氷の流出可能性があるように判読できた.棚氷面積については横ばい,あるいはクラックの陥入もあり減少傾向であるように判読された.次にこれらの現象を,デジタル解析により定量的に行うべく試みた.具体的には,海面上である閾値を境として明るい輝度をもつ部分を棚氷と判定した.なお,grounding lineよりも大陸側は氷床としてカウントから除外することで,定量的に正確な面積の抽出を行った.その結果,1995年の8000km^2から2008年は8849km^2へ面積増加という結果になり,目視判読とは逆の結果となった.その理由としては,今回の閾値決定法(色調強調後に輝度ヒストグラムで50%を境に2値化を実施)という方法に問題がある可能性がある.また,SAR画像に残存している入射角依存性による輝度のムラを取り除くこと等が正しい閾値決定のためには必要と考えられる.
次に,GLASセンサから作成されたDEMを用いて,本地域での棚氷の厚さを調査した.その結果,棚氷の終端部では50m程度,棚氷の陸側では100m程度の棚氷の楕円体高が得られた.昭和基地周辺のジオイド高が約20mであることを考慮しても,かなり厚い棚氷が大陸沿岸に分布していることが判明した.
次年度は,これらの棚氷の厚さ情報と,SARから得られる面積や流速の情報を元に,白瀬氷河を中心に定量的な氷(真水)の供給量の見積もりを試みる予定である.
  
成果となる論文・学会発表等 T.Yamanokuchi, K. Doi, K. Shibuya and S. Aoki, DEVELOPMENT OF GROUNDING LINE DATABASE USING ERS-1/2 DATA BY INSAR TECHNIQUE, Proceedings of International Geoscience and Remote Sensing Symposium (IGARSS2008), 2008.