共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

多様な環境場におけるメソ降水系の力学・組織化機構に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 京都大学防災研究所
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 竹見哲也

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

川島正行 北大低温研 助教

研究目的 メソ降水系の構造や組織化のプロセスは、熱帯・亜熱帯・中緯度帯などにおける特徴的な気温・湿度・風速といった多様な環境条件に大きく影響され、メソ降水系は個々の積乱雲セルが集団化して構造体に発展するプロセスによって形成されるものである。よってメソ降水系の構造や組織化のプロセスを理解するためには、個々の降水セルが力学場・温度場が雲微物理過程と相互作用しながら発達するプロセスと多数の降水セルが環境場と相互作用しながら組織化するプロセスを明らかにする必要がある。本研究では、環境場とメソ降水系のダイナミクスとの相互作用に注目し、メソ降水系の物理機構を明らかにし、降水過程の理解を深めることを目的とする。
  
研究内容・成果 熱帯・亜熱帯・中緯度など様々な気候下で見られるメソ対流系の違いを論じるには、安定度の違いが重要である。例えばLucas (1994)は、熱帯海洋上および米国大陸上での対流強度の違いについて、それぞれskinnyおよびfatと称して浮力プロファイルの違いが重要であることを指摘している。著者の過去の研究では(Takemi 2007a, 2007b)、安定度の違いをWeisman and Klemp (1982, WK82)による関数型に基づき表現していたが、浮力プロファイルの違いは調べていなかった。そこで本研究では、異なる安定度で浮力プロファイルも顕著に変わるような設定で数値実験を行い、シアーに直交する向きに組織化するスコールラインの強度に及ぼす影響について調べた。
用いたモデルはWRF/ARWである。水平一様な基本場・地面摩擦なし・コリオリなし・南北側面境界での周期条件といった理想場で数値実験を行った。計算領域は300 x 60 x 23 km、水平格子幅は500 m、鉛直格子点数は116とした。その他のモデルの設定はほぼTakemi (2007b)と同じであるが、雲微物理過程は5種凝結物質を予報するGoddardスキームを用いた。
気温・湿度のプロファイルは、WK82の関数で圏界面温位を343 Kおよび358 Kとした寒冷・温暖な場合(BUOYL-CおよびBUOYL-W)、および西部熱帯太平洋スコールラインの環境場(Trier et al. 1996; BUOYS)の3通りとした。最下層気塊のCAPEが各環境場で同一(2600 J/kg)となるように下層混合比を調整した。このような設定により、skinnyおよびfatな浮力プロファイルを与えることとした(図1)。一方、風速プロファイルは、西風シアーで0-2.5 kmあるいは2.5-5 kmで5 m/sおよび15 m/s変化する場合、0-5 kmで10 m/s変化する場合(シアー強度は5 m/sと同じ)の5通り設定した。初期擾乱は領域下層中央部に南北に延びる線状のサーマルとし、各ケースで4時間の積分を実行した。
風速差15 m/sのシアーがある場合にはBUOYSプロファイルではスコールラインが発達せず、BUOYL-Wの場合でも弱い系しか出現しなかった。そこで、シアー強度2 x 10-3の3通りで得られた結果についてまとめる。計算開始後1-4時間後の平均降水強度を調べてみると、すべてのシアーの場合において、BUOYSの場合が最も弱く、BUOYL-Cの場合が最も強くなっている。また、浮力プロファイルの違いによりシアーの影響も異なって現れることも分かる。下層5 m/sシアーの場合について強い上昇流の面積割合(冷気プールが占める面積に対する)を調べると、BUOYSの場合に面積率が小さくなっている。このことは、上昇流はBUOYSの場合に最も弱かったため、弱い上昇流のため周囲との混合作用が負に作用し、結果として上昇流域が小さくなっていることによるものと考えられる。浮力プロファイルの違いが上昇流に影響することで、スコールラインの強度にも影響を及ぼすと言えることが分かった。
  
成果となる論文・学会発表等 竹見哲也、スコールラインの強度に及ぼす浮力プロファイルの影響、日本気象学会2009年度春季大会、つくば、2009年5月28日〜31日
Takemi, T., Dependence of the precipitation intensity in mesoscale convective systems to temperature lapse rate, Atmospheric Research, under review