共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

山地流域における水・物質循環の比較研究
新規・継続の別 継続(平成18年度から)
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 鈴木啓助

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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石井吉之 北大低温研

研究目的  日本を含む東アジアでも酸性降水が観測されているが、流域内での酸緩衝機能が高く、酸性降水による顕著な被害は顕在化していない。しかしながら、北海道のような寒冷積雪域(冬期にはほとんど融雪が起こらない地域)では、融雪期になると北米や北欧と類似した河川水質変動が見られる。これに対し、本州日本海側のような温暖積雪域(冬期にも降雨や気温上昇によって顕著な融雪が起きる地域)では、冬から春にかけての河川水質は極めて変動性に富んでいる。そこで、寒冷積雪域と温暖積雪域の山地流域において水・物質循環の比較研究を行うことを目的とする。
  
研究内容・成果  研究対象流域として、乗鞍岳(3,026 m)の東側斜面に広がる高山源流域を選定した。研究対象流域の流域面積は10.97 km2で、標高は1,470〜3,026 mの北西から東方向へ流路をもつ流域である。乗鞍岳東斜面を流れる前川の標高1,470 m地点を研究対象流域の出口とし、そこに自記水位計を設置し渓流水の水位を連続測定した。水位流量曲線法により水位から流量を算出した。さらに、本流域の下端から北へ約2 kmの地点(標高1,450 m)に、信州大学山岳科学総合研究所乗鞍ステーション(「乗鞍高原」)があり、同地点において降水量を含む気象観測を行った。「乗鞍高原」における月降水量と前川流域における月流出高は、季節変動とともに年々変動も大きい。降水量は冬期間に比較的少なく、暖候期に多くなっている。しかしながら、梅雨や台風の季節における月降水量の多寡は年ごとに大きく異なっている。観測期間中の最大月降水量は2004年10月の487.5 mmであるが、これはふたつの台風の影響によるものである。特に、台風0423号に伴い、10月20日には日降水量207.0 mmを記録した。この値は、観測期間中における最大日降水量である。さらに、台風0422号により10月8、9日の2日間で124.5 mmの降水量を観測している。観測期間中に最大月降水量を示した2004年10月には、ふたつの台風による降水量が月降水量の7割超となっており、降水量の多寡は不規則な降水擾乱に起因しているといえる。台風に比して年々変動が小さいと考えられる梅雨期の降水量も、研究対象地域では変動が大きく、6、7月の月降水量が毎年多いわけではない。前川流域における暖候期の月流出高は、基本的には降水量の変動に同期するが、融雪期の流出高は降水量の変動とは無関係である。融雪期には、冬期間に流域内に大量に貯留された積雪の融解によって渓流水が涵養されているからである。研究対象流域では、春季の降水量は例年少ないが、融雪流出により流出高は毎年確実に多くなる。
  
成果となる論文・学会発表等 鈴木啓助(2008):中部山岳地域の大気・水文環境.日本生態学会誌,58,175-182. 2008/11
Tanaka, M. and Suzuki, K. (2008): Spatial variability of snow water equivalent in a mountainous area of the Japanese Central Alps. Journal of Geophysical Research, 113, F03026, doi:10.1029/2006JF000711.
Tanaka, M. and Suzuki, K. (2008): Influence of watershed topography on the chemistry of stream water in a mountainous area. Water, Air, and Soil Pollution, doi: 10.1007/s11270-008-9780-2.
Kuramoto, T., Tanaka, M., Shah, S. K. and Suzuki, K. (2008): Chemical characteristics of snowpack due to differences in snowfall type in Japan Alps. Bulletin of Glaciological Research, 26, 17-23.
Suzuki, K., Kuramoto, T., Tanaka, M. and Shah, S. K. (2008): Water balance and mass balance in a mountainous river basin, Northern Japan Alps. Bulletin of Glaciological Research, 26, 1-8.