共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
北方森林土壌の微生物群集及び真核生物群集の動態解明の試み |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 宮城教育大学環境教育実践研究センター |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 島野智之 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
笠原康裕 | 北大低温研 |
研究目的 | 森林圏の土壌生態系を理解するためには、地上部と地下部生物相の相互作用や生態学的連鎖の重要性が注目されている。ある種の細菌群や土壌動物の増減変動などと植物体との関係を直接探るのは非常に困難である。環境変動・外的因子と微生物群集変動や微生物間相互作用の関係性を明らかにすることが、地上部生態系との連鎖の理解には不可欠である。土壌中の細菌とそれを捕食する原生生物との関係を解析することを目的として、最初に原生生物の群集構造を明らかにするための手法の開発を行った。 |
|
|
研究内容・成果 | 土壌の微生物群集構造解析は、土壌環境中に存在する微生物数、群集構造(種組成や構成種の相対比)、多様性やその群集構造と土壌機能との関連性、微生物間や植物などの生物間相互作用などを明らかにしようとするものである。環境中の微生物は99%が培養不可能であるという認識から、環境より抽出したDNA(環境DNA)を利用した「非培養法」は近年ポピュラーな手法となり、主として16S rDNA配列に基づく系統学的解析が行われている。また、環境DNAそのものを網羅的に解読する「メタゲノム」が登場し、これを足がかりに微生物生態学にゲノム生物学の手法や考え方を取り入れた「環境コミュニティー研究」が展開しつつある。北方森林土壌を研究対象として、今後、群集構造動態と、原生生物-微生物相互作用を解析するために、2つの研究を行った。1)繊毛虫の機能解析のための繊毛虫シングルセルPCR法と2)環境DNAを用いた繊毛虫DGGE法の開発である。 1)繊毛虫の機能解析のための繊毛虫シングルセルPCR法 環境中に生息する繊毛虫を培養株として確立し、これらを材料にシングルセルPCRの条件検討を行った。問題となる点は、繊毛虫の体長が、30マイクロメートルから120マイクロメートル程度の大きさであること、また、細菌や鞭毛虫等を摂食しているため、体内に異なるDNAを持っていることである。繊毛虫からDNAを単離する方法を検討すると共に、Nested PCR法と特異的プライマーの使用により繊毛虫1個体から、リボソーマルDNA及びミトコンドリアDNAであればシークエンスが可能となった。この方法によって、土壌構造中に存在する繊毛虫を選び出し、一細胞からでもその種や特性が同定できる。これまで、土壌団粒からの繊毛虫の単離は困難でありながらも培養液中に泳ぎだした個体であれば、これを培養可能であれば、培養し同定することが出来た。しかし、本法を使用することによって、土壌団粒そのものから繊毛虫に関してマニュピレーターなどを使用し、その三次元的分布や機能などを明らかにすることが出来る。 2)環境DNAを用いた繊毛虫DGGE法 これまで土壌中の真核生物については環境DNAを使用した群集解析の報告があった。しかし、繊毛虫という機能群を対象に、その動態を解明する手法はなかった。特に、真核生物プライマーを用いた解析では、繊毛虫の動態がマスクされてしまう危険性が高いことが予想されていた。そこで、Nested PCR法と特異的プライマーの使用し、かつ、リボゾーマルDNAの特定の領域を使用することによって、繊毛虫群集をDGGE法によって明瞭に解析することが可能になった。 多種多様な原生生物種を抱え複雑な構造を持つ土壌を対象とする基盤手法が開発されたことで、微生物と相互作用を持つ原生生物群集の機能群の解析が今後さらに具体的に発展することが期待できる。 |
|
|
成果となる論文・学会発表等 |
Shimano, S., Sanbe, M. and Kasahara, Y. (2008) Linkage between Light microscopic observations and molecular analysis by single-cell PCR for Ciliates. Microbes and Environments, 23, 356-359. Shimano, S. Sanbe, M. Puitika, T. and Kasahara Y (2008) Ciliate community analysis of agricultural soil based on SSU rDNA with new taxon-specific primer. The International Society of Protistologists (ISOP), 59th Annual Meeting, and the International Society for Evolutionary Protistology, 17th Meeting (ISEP XVII). Program book. pp.18. 高叡瑞・明石典之・熊谷朋子・三部光男・今泉友希・外薗香菜・笠原康裕・島野智之 (2008) シングルセルPCR法による繊毛虫類の塩基配列解析. 日本土壌動物学会第31回記念大会講演要旨集, pp.39. |