共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北海道北東オホーツク沿岸のシダ植物多様性と越冬環境
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 佐藤利幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

児玉祐二 北大低温研

研究目的 北海道北東のオホーツク海は、北半球で最南端の流氷接岸が見られる地域である。これまでにシダ植物の多様性(種数)は多くはないが、日本で遺存分布する寒地シダ植物が点在する地域として知られている。本共同研究ではウエンシリ岳を中心にシダ植物相を調査(精査)して、これまでの蓄積資料に追加しつつ、寒地性シダ植物の分布特性を探るものである。
  
研究内容・成果  20年度の調査は8月末に1回、20地点で行われた。ウエンシリ岳をとりまく地域で調査地点が追加された。1976年以来30年間で127地点の調査(1地点はおおよそ1ヘクタール)地点が蓄積された。積算シダ種数は67種(資料では70種)である。この種数は17枚の5万分の1地勢図の積算種数としては北海道北部(宗谷地方、島々を除く)に匹敵するほど少ないと結論できる。北海道におけるシダ植物のホットスポットとしての、「知床半島」・「小樽東部」・「黒松内低地」・「大雪山系北部」などでは5万分の1の地勢図で確認できるのシダ積算種数に相当する。平均種数は約8種と北海道の平均値11よりもかなり低い。
 ところがそのシダ植物種組成に特徴がある。日本の中部山岳や北海道山地にまれに生育するシダ植物、例えばカラフトメンマ・イワカゲワラビ・ナヨシダ・(ヤマヒメワラビ)・エゾノヒモカズラ・(イワイヌワラビ)・(オオエゾデンダ)・ヒメハナワラビ・カラクサイノデ・ニオイシダ、など寒地性シダとして代表できる種群が点在している。
 この地域ではウエンシリ岳(1000m)を除くとおだやかな丘陵地がつづく(500m以下)。落葉広葉樹林から針葉樹林(エゾマツ・トドマツ)が混在する。岸壁にこれらまれな寒地性シダ植物が点在する。エゾウコギの出現頻度も高く、シダ植物だけではない寒地性植物(大陸性)の存在も示唆される。 氷のトンネル(10月まで谷に残雪あり)で代表されるウエンシリ岳の全域の精査が期待される。なお上記(種名)の種は北東北海道のアマチュアのかたによる発見である。ヤマヒメワラビは遠軽在住の林さんの発見であり、これまで中部山岳でのみ確認されていた北半球に広く分布する山岳種であった。北海道における寒地性植物のさらなる遺存分布が期待できる。
 一方で北海道への暖地性シダの上陸の情報もある。シケシダ・シノブなどの北上も知られる。温暖化が叫ばれる今日、北海道でも寒地植物群と暖地植物群の共存様式の変遷がみられよう。広域での精査が待たれる。
  
成果となる論文・学会発表等 佐藤利幸ら 新松本市の植物多様性とシダ植物相 長野県植物研究会誌41:1-10.2008
佐藤利幸 信州におけるシダ植物種密度の水平分布図作成への試み 長野県植物研究会誌 40:137-139.