共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

親潮の力学についての数値実験的研究
新規・継続の別 継続(平成16年度から)
研究代表者/所属 大分大学教育福祉科学部
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 西垣肇

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

三寺史夫 北大低温研

研究目的  本研究は,西岸境界流である親潮の力学の解明を目的とする。親潮は北海道東岸を南下し,その後,流量の半分程度はさらに南下して東北沖に進入し,残りは北海道沖を東進する。その基本的成因などの力学的過程は十分に理解されていないので,本研究を行う。関連深い現象や海域として,黒潮とオホーツク海の影響に特に注目する。
 親潮域ならびに北西太平洋には顕著な十年規模の変動があり,それが気候変動,炭素・栄養塩などの物質循環,漁場形成などと密接に関係している。その面においても本課題には海洋学的・社会的意義がある。
  
研究内容・成果  本研究では,親潮の力学的理解を目指し,以下の方法を用いる。第一に,風成循環モデルを用いた数値実験を行う。黒潮の果たす役割が大きいと考えられているため,亜熱帯・亜寒帯循環を理想化した条件の下で,親潮,黒潮,そして両者の合流域の力学的過程を検討する。第二に,オホーツク海南部における海面高度計データの解析を行う。親潮にはオホーツク海起源の海水が流入し,その海水は低渦位という力学的に重要な特徴を持つことが知られている。このためオホーツク海に注目する。
 風成循環モデルでは,親潮に大きく影響していると考えられる黒潮について詳細な検討を行った。具体的には,遠州沖における黒潮直進路が「西岸境界流が南西から北東に向かう海岸線と海底斜面から離れる」現象であるとの観点に立ち,その力学に注目した。
 標準的なパラメタを用いた数値モデルにおいて,黒潮直進路の流れパターンを表現することに成功した。強い境界流が海岸を離れ,その後海底斜面を沖向きにスムースに横切り,沿岸側に流れの弱い領域(よどみ域)を伴う。
 よどみ域が安定的に存在する条件は以下のとおりである。(1) 海底斜面の存在が必要である。(2) 流量は一定の値以下でなければならない。(3) 海底斜面の形状に鈍感である。
 そのメカニズムは以下のように考えられる。(1) 海底斜面の存在は,境界流の傾圧不安定を抑えてよどみ域の安定的存在を可能にする。(2) 境界流の流量は,その「沿岸側の上層層厚と外洋側の上層層厚との差」と連動する。沿岸側の上層層厚がゼロになるところが,よどみ域が安定的か否かの臨界値であると考えられる。
 海面高度計データの解析では,複素経験的直交関数 (CEOF) 解析を行い,海面高度の時空変動を検討した。CEOF第1モードの空間的特徴は,千島列島で振幅が小さく海盆北縁に向かって大きくなることと,2つの極値を持つことである。これらは千島海盆の高気圧性循環の季節変動を表すことが示唆される。
 以上のように,親潮周辺における有用で興味深い知見が得られた。その知見とノウハウは親潮の力学理解にとって重要なカギとなるものである。
  
成果となる論文・学会発表等 内本圭亮,三寺史夫,江淵直人,水田元太: 千島海盆東部の海面高度の年周期変動. 海と空,84(2),2008