共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

生体タンパク質の氷界面吸着特性と氷核あるいは不凍機能発現との関係の研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 産業技術総合研究所環境管理技術研究部門
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 灘浩樹

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

古川義純 北大低温研

研究目的 本研究は、生体中に含まれる氷核タンパク質(Ice-Nucleation Protein、INP)および不凍タンパク質(Anti-Freeze Protein、AFP)の氷界面への吸着構造を調べ、それらの吸着構造特性と氷核機能もしくは不凍機能発現との関係を明らかにすることを目的とし、INPやAFPが生物の寒冷環境への適応へ果たす役割をそれらの分子構造および相互作用特性から理解することを目指す。
  
研究内容・成果 本研究では、βヘリックス構造を持つ昆虫spruce budwormの AFP(以下、sbwAFP)およびINPを持つXanthomonas属の氷核活性細菌(sbwAFPと同様にβヘリックス構造を持つと考えられている)を取り上げ、実験と計算機シミュレーションにより氷界面吸着特性を調べた。

(1)sbwAFPの氷表面吸着構造の計算機シミュレーション研究
CHARMM力場およびSix-site modelを用いた分子間相互作用計算により、sbwAFPの氷プリズム面(sbwAFPが成長を抑制する氷結晶面)への安定吸着構造を調べた。まず、理想的な氷プリズム面構造上におけるsbwAFPの様々な吸着構造に対して吸着エネルギーを計算し、エネルギー的に安定な吸着構造を幾つかピックアップした。 次に、それぞれのピックアップしたエネルギー的安定吸着構造に対して分子動力学シミュレーションを実施して氷表面構造を緩和させ、氷プリズム面分子配列とのマッチングおよび親和性を調べることにより、sbwAFPの氷プリズム面の吸着安定性を検討した。
分子動力学シミュレーションの結果、sbwAFPの水素結合基の多くが氷プリズム面に接触するエネルギー的安定吸着構造では、氷プリズム面分子配列に大きな乱れが生じた。このことは、sbwAFPが氷プリズム面と多くの水素結合で結ばれるような吸着構造は必ずしも安定にはならないことを示唆している。一方、sbwAFPのスレオニン残基の側鎖メチル基(疎水性)が氷プリズム面分子配列の窪みに整列するエネルギー的安定吸着構造に対しては、氷プリズム面分子配列に大きな乱れが生じなかった。これより、他の種類のAFPと同様に、sbwAFPの疎水基が氷表面に接触する吸着構造が熱力学的に安定になるものと考察される。

(2) 氷核活性細菌存在下での氷の結晶成長実験
氷核活性細菌を混入した過冷却水(濃度0.5〜2mg/ml、温度-0.6〜-0.05℃)からの氷の結晶成長実験を実施し、成長形態と成長速度を調べた。実験は、低温科学研究所が所有する結晶成長装置を用いて実施した。実験の結果、純水からの成長の場合と同様に平坦なベーサル面を持つ円盤状あるいは六角樹枝状の成長形態が観察された。AFP存在下での成長の場合に見られるような氷の成長抑制現象(サーマル・ヒステリシス)は観察されなかった。一般的にAFPによる成長抑制は、AFPの強い界面吸着により引き起こされる。したがって、本実験結果にINPの効果が反映されたと仮定するならば、INPの界面吸着はAFPに比べて弱いと考察できる。もしINPの構造が本当にsbwAFPと同様に氷表面分子配列とマッチするβヘリックスであるならば、INPの吸着がsbwAFPに比べて弱くなる原因の一つとして、INPの方がsbwAFPに比べて親水性がやや強いという点が考えられる。このことは、不凍機能あるいは氷核機能を発現させるタンパク質の構造特性を解明するにあたり重要と思われ、今後更に詳しく追求していくことが望まれる。
  
成果となる論文・学会発表等 H. Nada and Y. Furukawa. Growth inhibition mechanism of an ice-water interface by a mutant of winter fluonder antifreeze protein: a molecular dynamics study. The Journal of Physical Chemistry B. 112 (23) 7111-7119. 2008