共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

積雪変動が地表面熱収支に与える影響と、それに伴う地温構造の応答について
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 兒玉裕二

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原田紘一郎 宮城大学食産業学部 助教授

2

紺屋恵子 海洋開発研究機構 研究員

3

渡辺力 北大低温研 教授

4

末吉哲雄 東大気候システム研究センター 特任研究員

5

澤田結基 産総研地質標本館 学芸員

研究目的  冬季の積雪下地温は積雪量とその季節的な推移の影響を強く受ける。特に積雪開始日や消雪日のシフトは、気温以上に地温に大きく影響する。この影響を定量的に評価することは、地温の気候変動への応答を正しく理解するために重要であり、実用面では、季節凍土の変動予測などに応用出来る。
 低温科学研究所では積雪期に圃場での積雪観測が週2回の頻度で継続的に行われ、合わせて一般的な気象データと雪温・地温・地中熱流量の計測が行われている。本研究ではこのすぐれたデータセットを通して、近年の冬季の積雪変動が地温に与える影響を定量的に検証することを目的とする。
冬季前半の地温・気温・積雪量の時系列(2005年〜2008年)  
研究内容・成果 今年度行った作業と結果を以下に要約する。

(1) データの整備
低温研圃場のデータセットのうち、測器観測によるデータの処理・解析を行った
・欠測値の処理
・日平均値の作成と冬季時系列データの作成

(2) 積雪開始期の積雪と地温の変化
整備されたデータにもとづき、2005~2008年の3シーズンについて、11月~2月の気温(1.5m)・地温(2cm、30cm)・積雪量の比較を行った。3シーズンの特徴を以下にまとめる;

[2005-2006]
・積雪開始直前の時期に季節凍土が形成(2cm地温が氷点下)
・11月末から積雪開始の12月上旬まで、2cm地温が気温の変化に追随
・積雪が40cmを越えると、2cm地温/30cm地温ともに僅かな上昇

[2006-2007]
・季節凍土の形成は無し(土壌温度は常にプラス)
・積雪開始が2005年に比べて早く、気温が氷点下になる前に積雪開始
・積雪量は1月末まで20cm以下だが、2cm地温は気温に追随しない
・30~40cm程度の積雪で地温が僅かに上昇している

[2007-2008]
・季節凍土の形成は無し(土壌温度は常にプラス)
・11月末~12月にかけての気温が零度前後で推移
・2005年のケースに比べて2cm地温の応答が悪い(薄い積雪?)
・1月に低温が続くが、この時期の積雪は20cmを超えており、2006年のケース同様2cm地温への影響は小さい


考察:
全ての年に共通して、積雪量が一定の閾値を越えると地温の変動が極めて小さくなる。これは積雪の低い熱伝導率を反映したもので、積雪開始時期が冬季中の地温決定に大きく影響していることを意味しており、定性的には従来から指摘されている通りの結果である。

細かく見ると、1~2週間程度の積雪開始の違いが土壌の凍結/不凍結を決定しうることがデータから示されている。この積雪の断熱効果において、積雪量はあまり重要ではなく、20cmで十分な断熱効果があることが地温データから見て取れる。以上より、札幌における季節凍土の形成は極めて限定的であり、わずかな条件の違いによって左右されることが示唆される。

その一方で、積雪の低い熱伝導率のみでは、地温の季節変動を説明することは出来ないことが分かった。積雪量のわずかな増加に同期して地温に明瞭な昇温が見られる2006〜2007年のケースなどを理解するためには、積雪中〜地表面の熱輸送プロセスを正しく見積もる必要があると思われる。このために、今後は本データセットの解析を継続しつつ、SNOWPACKなどの積雪モデルを適用してプロセスをより精緻に検証する必要がある。

冬季前半の地温・気温・積雪量の時系列(2005年〜2008年)  
成果となる論文・学会発表等 末吉哲雄,兒玉裕二,季節凍土帯における地温構造の積雪変動に対する応答について,日本地球惑星科学連合2007年大会,2009年5月,千葉幕張