共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

海洋大気中の水溶性有機物の組成とダイナミクス
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 河村公隆

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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LAZAAR Manuel E.N.S.C.R. , France 大学院生

研究目的 西部北太平洋上の大気成分は、アジア大陸の人間活動の影響を強く受ける結果、揮発性有機物をはじめとして様々な汚染物質を含んでいる。本研究では、化石燃料の燃焼やバイオマス燃焼によって大気中に放出される有機物およびその酸化生成物である低分子カルボン酸に着目し、海洋大気中でのそれらの分布と存在状態(ガス・粒子相の分配)を明らかにし、エアロゾル生成に果たすそれらの役割を評価する。
  
研究内容・成果  低分子ジカルボン酸は、大気エアロゾル中に存在する主要有機成分であり、カルボキシル基を2つ持つことから水によく溶け、高い吸湿特性をもつ。この化学的性質のために、ジカルボン酸はエアロゾルの吸湿特性や凝結核活性など粒子の物理的特性を大きく規定する重要な成分であり、気候変動に深く関わる物質である。これまで、都市、海洋、極域などの大気中において、ジカルボン酸の分布と濃度に関する研究は行われてきた。しかし、その粒径分布についての情報は限られていた。本研究では、沖縄・辺戸岬で海洋エアロゾルを粒径別に採取し、低分子ジカルボン酸と関連化合物の粒径分布を測定した。
 国立環境研究所の辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーションにて2008年3月16日から4月13日まで、ミドルボリュームエアインパクターサンプラー(MVI, 100 l/m)を用いて、石英フィルター(90 mm)上にエアロゾル粒子を粒径別に採取した。粒径サイズは、<0.43, 0.43-0.65, 0.65-1.1, 1.1-2.1, 2.1-3.3, 3.3-4.7, 4.7-7, 7-11.3, >11.3 µmであった。一試料あたりの採取時間は3-5日であった。合計5セットの試料を採取し、これまでに4セットを分析した。フィルター試料の1/4を切り取り、水抽出にて低分子ジカルボン酸等の水溶性有機成分を抽出した。抽出物を BF3/n—ブタノールにてカルボキシル基をブチルエステルに、アルデヒド基をアセタールに誘導体化した。誘導体化物をキャピラリーGCおよびGC/MSにて測定した。
 すべての粒径画分に、C2-C12ジカルボン酸、C2-C9オメガオキソ酸、ピルビン酸、α-ジカルボニル(グリオギザール、メチルグリオギザール)を検出した。ほとんどの試料で、シュウ酸が最も優位なジカルボン酸であり(C2, 159-236 ng m-3)、サブミクロンサイズ(0.65 - 2.1 µm)に濃集されていることが明らかとなった。このことは、シュウ酸が大気中に存在する揮発性有機物の光化学酸化で生成され、微粒子に吸着されることを意味している。一方、アゼライン酸(C9)は、サブミクロンと共に粗大粒子(3-5 µm)にも濃度の最大を示した。このことは、不飽和脂肪酸の二重結合が海洋エアロゾル表面にて酸化されていることを示唆しており、従来河村らが提案した不飽和脂肪酸の光化学的酸化の説を支持した。
  
成果となる論文・学会発表等 河村公隆、Manuel Lazaar、海洋大気中の低分子ジカルボン酸の粒径分布:2008年春の沖縄辺戸岬におけるエアロゾル観測、大気化学討論会2008.10横浜にて、口頭発表した。