共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

モルディブ諸島における降水システムと大気環境場の相互作用に関する研究
新規・継続の別 継続(平成19年度から)
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 研究員
研究代表者/氏名 勝俣昌己

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

藤吉康志 北大低温研

研究目的 2006年(平成18年)秋季、モルディブ共和国に北大低温研のドップラーレーダー等を設置し、同時に研究船「みらい」を近傍海域に展開することで、季節内振動、中でもマデン・ジュリアン振動(MJO)に関連した降水システムとその環境場に関する集中観測“MISMO”が実施された。本研究では、そこで得られたデータを用いて、熱帯インド洋における降水システムの出現特性と大気環境場の関係についての解析を行い、特にインド洋における季節内振動の内部構造と、そこでの対流システムの役割を明らかにすることを目的とした。
  
研究内容・成果 本年度は、MISMO集中観測期間(2006年10〜11月)で観測されたMJO対流活発期の解析を行った。前半では主に使用するデータの品質検討と補正を行い、後半においてはそのデータを使用した現象の解析を行った。
使用データの検討は、主に2種類のデータに対して実施した。1つは、複数展開した地上レーダーの反射強度を同一品質として扱うための検証と補正である。海洋上の離れた場所にある2台のレーダーを比較するため、TRMM衛星搭載の降雨レーダを基準器として用いた。その結果、ガン島に設置したレーダーの反射強度が弱いことが確かめられた。これについて、同島に設置した雨滴粒径分布計(ディスドロメータ)を用いて、レーダー近傍の降雨による減衰の効果を補正した結果、バイアス誤差の解消と、分散誤算の軽減に成功した。
もう1つは、ラジオゾンデ網で観測されたパラメータから収支解析を行うことによって得られる、対流スケールの現象による大気の加熱の鉛直プロファイル及びその時間変化である。精度検証の為に、収支解析から得られた領域内の推定降水量を、地上のレーダーや雨量計、衛星観測データ、等と比較した。この結果、少なくとも観測された対流活発期以前については良い精度での推定がなされていることが確かめられた。
上記のデータを用いて、対流活発期に向かう期間のプロセスについて解析を行った。特徴的な現象として、湿潤層の発達に特徴的な階段状のパターンが観測された。そのメカニズムについて、集中観測で取得されたレーダー、ラジオゾンデ、その他のデータを用いた解析を行った。
湿潤層の発達は、約6日の周期で観測領域を通過する東進雲システムがそれをもたらしていた。この東進雲システムは、深い対流に伴う鉛直輸送によって大気を湿潤化させていることが観測データから明らかになった。また、この東進雲システムは一般的な湿潤ケルビン波や重力波よりも遅い伝播速度で動いている。このメカニズムについて検討した結果、過去の理論・モデル研究で提唱された、浅い加熱で励起される遅い重力波、及び、摩擦収束が重要であるケルビン波、の両者と共通する特徴が得られた。一方、平均的な加熱プロファイルにおいては、西太平洋の観測と比較してより下層の加熱が大きい”Bottom Heavy”なプロファイルが明らかになった。この結果からは、西太平洋の観測結果から重要視されていた、”Top Heavy”な加熱、浅い対流雲による下層での蒸発冷却による水蒸気輸送などのプロセス以外の水蒸気輸送プロセスの存在が示唆され、東進雲システムの重要性を支持する結果となった。
  
成果となる論文・学会発表等 Katsumata, M., T. Ushiyama, K. Yoneyama, and Y. Fujiyoshi, 2008: Combined use of TRMM/PR and disdrometer adata to orrect reflectivity of ground-based radars. SOLA, 4, 101-104, doi:10.2151/sola.2008-026.
Yoneyama, K., Y. Masumoto, Y. Kuroda, M. Katsumata, K. Mizuno, Y.-N. Takayabu, M. Yoshizaki, A. Shareef, Y. Fujiyoshi, 他, 2008: MISMO field experiment in the equatorial Indian Ocean. Bull. Amer. Meteor. Soc., 89, 1889-1903.
勝俣昌己, R. H. Johnson, P. E. Ciesielski, 米山邦夫, 藤田実季子, 牛山朋来, 城岡竜一, 山田広幸, 茂木耕作, 藤吉康志, 2008: MISMO期間の熱・水収支解析結果と地上・衛星観測雨量との比較解析. 日本気象学会2008年秋季大会(仙台), C163.
勝俣昌己, R. H. Johnson, P. E. Ciesielski, 2008: MISMOで観測されたインド洋における季節内振動の対流活発化過程. 日本気象学会2008年秋季大会(仙台), C165.