共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
低温度域における高分子膜の水蒸気透過性に対する表面脂質の影響 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 |
研究代表者/職名 | 准教授 |
研究代表者/氏名 | 金子文俊 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
川口辰也 | 大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 | 助教 |
2 |
古川義純 | 北大低温研 | |
3 |
片桐千仭 | 北大低温研 |
研究目的 | 昆虫は寒冷な地域へも生息の範囲を広げてきている。寒冷な気候への適応するためには、昆虫は冬季乾燥耐性を持つ必要がある。昆虫は、内容積に対して体表面積が大きく、その内部からの水分の損失を防ぐことは切実な問題である。昆虫では水の損失の大凡90%が、クチクラとよばれる外骨格を通じての蒸散であり、そしてクチクラ表面に存在する脂質層が水分蒸発の調節に重要な役割を果たしているものと予測されている。 本研究ではチキンなどの高分子膜を昆虫外骨格のモデルとして用い、表面脂質層の厚みや組成等の変化が蒸散速度に与える影響について具体的な情報を得ることを目的としている。 |
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研究内容・成果 | 本年度は、昆虫の外骨格ならびにモデル膜の水蒸気透過性を評価するために必要な、実験手法の開発を中心に行った。昆虫のような小動物体表からの水蒸気蒸散については、これまで一個体の体表全体からの蒸散量が実験的に評価されてきたが、体表の各部位は、組織構造や組成ともに大きく変化するため水蒸気の透過性も大きく変化するものと推測されるが、これまでは生体小組織の水蒸気透過性を簡便に測定する手法がなかった。そこで、通常窒素気流中におかれた試料の重量変化を高感度に測定する熱重量分析(TGA)装置の機能に着目し、これを利用した生体関連小試料の透湿性を簡便に評価するための手法を開発した。 (1) 熱重量分析装置にはSII社製 TG/DTA 6200を用いた。試料容器にはDSC測定用の密閉パンまたは簡易密閉パンを利用した。このパンに試料形状に対応した開口を形成し、試料を固定した。この内部に水を封入し、水蒸気の試料透過にともなう重量減少を0.1マイクログラムオーダーまで観測した。水蒸気透過による重量減少速度が数マイクログラム/min以上の試料については、測定結果の再現性がある程度確保される。透過性が大きい試料の場合には、1mm2程度の面積の試料にもこの手法を適用することが可能である。パン内部の水蒸気分圧を測定温度における飽和蒸気圧、窒素ガスが流れるパン外側の水蒸気圧を零と近似して水蒸気透過係数を評価することができる。 (2) 昆虫外骨格モデルとして、キチン膜を作成した。キトサン水溶液から、キトサン膜を作り、この膜をアセチル化することでキチン膜を得た。アセチル化は約80%であった。 (3) このチキン膜の膜厚と面積を様々に変えて、TGを用いた水蒸気透過性の実験を行った結果、水蒸気透過量は膜面積に比例し膜厚に半比例するという結果が得られ、TGを用いた手法の信頼性が確認できた。 (4) このキチンモデル膜の表面に、炭素数22の飽和炭化水素であるドコサン(n-C22H46)の膜を塗布した。7.5ミクロン厚のキチンフィルムに0.5ミクロン厚のドコサンを塗布すると水蒸気透過量は半減するという結果が得られた。またドコサンの融点以上では、水蒸気透過量は急激に増加した。 以上の結果より、昆虫外骨格の表面脂質が昆虫体内からの水蒸気蒸散の抑制に大きな寄与をしていること、そして脂質分子の凝集状態が重要な因子であること、が強く示唆される。 |
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成果となる論文・学会発表等 |