共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温ならびに光環境への適応における光合成色素合成の制御機構の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 農業生物資源研究所
研究代表者/職名 主任研究員
研究代表者/氏名 稲垣言要

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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田中歩 北大低温研 教授

研究目的  植物は光をシグナルとして認識して生存戦略を立てるとともに、エネルギー源として活用して生長している。光合成に適した光環境にあるかは常にモニターされており、適した環境では光合成器官を発達させるが、不適切な環境下では光合成器官構築に配分する資源を減らし、植物体の伸長など、より良い光を得るための形態形成プログラムを発動させるなどの制御を行う。しかしながら、その分子機構は不明なところが多い。我々は、イネの光受容体フィトクロムが欠損したイネが示す光合成色素合成低下表現型が、光環境適応プログラムの発動制御不全によって導かれていると仮定し、その仮定を証明するために本研究を企画した。
図1 連続赤色光下9日間栽培したイネ地上部のクロロフィル含量。 図2 暗所8日間栽培したイネに連続赤色光を照射した場合の地上部のクロロフィル含量の推移。 図3 クロロフィル前駆物質3種の含量変化。図2と同じ条件の処理後に色素抽出して測定。
研究内容・成果  イネには赤色光受容体フィトクロムが3分子種(phyA, phyB, phyC)存在し、我々は個々の分子種の機能を明らかにするために全ての分子種について変異株を単離し、それらを用いて様々な解析を進めている。この内、phyB変異株は、赤色光下栽培すると光合成色素合成低下表現型を示す。
 連続赤色光下9日間栽培したイネの地上部のクロロフィル量は、生重量1グラムあたり通常1ミリグラム程度だが、phyB変異株では5分の1程度まで低下している(図1)。この時、phyB変異株の葉緑体内では、光合成系の発達が特異的に低下しており、あたかも光合成に不適切な環境下で栽培された植物のように、光合成器官の構築が抑制されていた。このことは、光合成に適した赤色光によって葉緑体を発達させるシグナルは、phyBによって発信されていることを示しており、その機能が他の分子種で相補できないことを示している。
 葉緑体発達におけるphyBの機能を解明することを目的に、暗所で8日間栽培したイネに赤色光を照射し、クロロフィルの蓄積量を測定した。その結果、野生株である日本晴では、光照射に応じて直線的にクロロフィルが合成されているのが示されたが、phyB変異株では、照射開始9時間目以降、クロロフィルの合成が進まないことが示された(図2)。
 この時のクロロフィル生合成前駆物質、protoporphyrin IX, Mg protoporphyrin IX, とそのメチルエステルの含量を測定した(図3)。その結果、暗所8日間栽培したイネの地上部は、著しくクロロフィル合成が低く、赤色光照射によって、それが著しく活性化されていることが示された。一方、phyB変異株では、6時間までのクロロフィル合成の活性化は野生株とほぼ同様だが、クロロフィル合成低下が見られる9時間目以降には著しく前駆物質の含量が低くなる。特に、Mg protoporphyrin IX, とそのメチルエステルの含量はともに5分1程度まで落ち、これらはMgキラターゼの生成物であることからMgキラターゼの活性が、この時間帯、phyB変異株で著しく低下していることが示された。これは、クロロフィル蓄積を直接的に低下させていると解釈された。
 以上が、今回の共同研究によって行われた解析結果の概要である。この結果に加え、農業生物資源研究所で行った解析結果を加えると、以下のような可能性が示された。
1)イネのフィトクロムBは光合成に適した光環境にあるかをモニターする光受容体である。
2)フィトクロムBは、クロロフィル合成酵素遺伝子の発現誘導を通じてクロロフィル合成を活性化させ、葉緑体の発達を促す。
3)クロロフィルの合成量は、葉緑体の発達に密接な関係がある。
図1 連続赤色光下9日間栽培したイネ地上部のクロロフィル含量。 図2 暗所8日間栽培したイネに連続赤色光を照射した場合の地上部のクロロフィル含量の推移。 図3 クロロフィル前駆物質3種の含量変化。図2と同じ条件の処理後に色素抽出して測定。
成果となる論文・学会発表等 稲垣言要、木下圭祐ら イネphyB変異株が示す薄緑葉表現型の分子機構の解析 第50回日本植物生理学会年会 2009