共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

微生物群集における機能的同等性が多様性に及ぼす影響の解明
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大北方生物圏フィールド科学センター
研究代表者/職名 学振特別研究員
研究代表者/氏名 平尾聡秀

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

村上正志 千葉大院理学研究科 准教授

2

小島久弥 北大低温研 助教

研究目的  生物群集の多様性の維持機構に関する従来の知見では、分類群ごとに異なる環境を利用すると仮定し、環境異質性が重要な役割を果たすと考えられてきた。それに対し、機能的にほぼ同等な分類群が共存している例も多く報告されており、機能的に同等性であっても、分散制限によって多様性が維持されるという予測がなされている。多様性の維持機構を解明するためには、野外の生物群集において環境異質性と分散制限の相対的重要性を定量的に評価する必要がある。本研究では、データベースに存在する湖沼群の微生物群集データをメタ解析し、湖沼の物理・化学環境と空間配置が微生物群集構造の変動性に及ぼす影響を評価することを目的とした。
Adirondack湖沼群における微生物群集構造の変動性分解  
研究内容・成果  メタ解析では、GenBankに蓄積されている米国・ニューヨーク州のAdirondack湖沼群の微生物群集データ(Percent et al. 2008 Appl. Environ. Microbiol. 74: 1856-1868)を利用した。このデータでは、微生物群集のサンプルが2000年・11月と2002年・9月に合計18の湖沼の表層と深層から採取され、湖沼の物理・化学パラメーターとして31種類の環境データが同時に計測されている。31個の16S rRNA遺伝子ライブラリ(2135クローン)の解析から、細菌19綱(95亜綱)が得られている。
 これらのデータから、湖沼の物理・化学環境と空間配置が微生物群集構造の変動性に及ぼす影響を解析した。この解析では、分散制限の効果が湖沼の空間配置に反映されることを仮定している。微生物群集については、綱レベルの解像度のデータを用いた。湖沼の物理環境パラメーターとして、透明度・伝導度・溶存酸素量・水温・pHを使用し、化学環境パラメーターとして、総窒素量と総リン量を用いた。また、湖沼の空間配置については、主座標分析によって、6つの主座標を生成した。なお、表層水のデータのみを使用した。そして、冗長性分析(RDA)によって、湖沼の物理・化学環境と空間配置が微生物群集構造の変動性に及ぼす影響を解析、変動性分解によって、物理環境・化学環境・空間配置の相対的重要性を評価した。
 解析の結果、物理環境要因が微生物群集構造の変動性の13%、化学環境要因が変動性の10%、空間要因が変動性の12%を説明することが明らかになった(図)。また、これらの3つの要因の交互作用によって、変動性の10%が説明された(図)。全体の変動性のうち55%は、検討した要因によって説明することができなかった。これらの結果は、湖沼群の微生物群集構造がさまざまな物理・化学環境の異質性から大きな影響を受けていることを示している。しかし、その一方では、環境異質性の空間相関を取り除いた湖沼の空間配置も微生物群集構造の変動性に対する一定の説明力をもっており、微生物群集構造が環境異質性以外の要因からも影響を受けることを示唆している。この空間要因の背後にあるプロセスとして、分散制限・サンプリングバイアス・種分化速度の違いなどが考えられるが、本課題期間中にはこれらのプロセスを検討することができなかった。
 本研究から、湖沼群の微生物群集でも、湖沼の物理・化学環境だけでなく、湖沼の空間配置が群集構造の変動性に影響を及ぼすことが明らかになった。生物群集の構造化に空間プロセスが寄与していることは、機能的に同等な分類群を群集中に維持するプロセスが野外でも存在しうることを示唆しているが、これらの空間プロセスの詳細を解明することは今後の課題である。また、説明できない変動性が大きいという課題もあり、群集データの解析において統計モデルの妥当性や予測性を評価するためにも、尤度に基づく解析の枠組みを構築する必要がある。
Adirondack湖沼群における微生物群集構造の変動性分解  
成果となる論文・学会発表等