共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷土壌に生息する炭化水素分解微生物の分解機能及び低温適応酵素の解析
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 福井学

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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濱村奈津子 ポートランド州立大学 主任研究員

研究目的 原油や軽油などの炭化水素は、寒冷地を含むあらゆる地球環境を広く汚染している汚染物質の一つである。特に寒冷圏汚染現場の浄化には低温環境に適応した固有の微生物群が重要な役割を果たすことが報告されている。環境中で汚染物質分解に関与する微生物群及び機能遺伝子の特定において、機能遺伝子をターゲットにした分子生物学的アプローチが有効であることが以前の研究で示されている。そこで本研究では、南極の汚染土壌における汚染物質分解機能を調べる事を目的とし、寒冷環境に適応した微生物群の炭化水素分解酵素遺伝子の探索を行なう。
  
研究内容・成果 低温環境で原油や軽油等異なる炭化水素混合物分解に関与している微生物群を特定するため、寒冷地土壌のmicrocosmを用い炭化水素分解活性と微生物群集構造の変化をモニタリングした。実験に用いた原油は直鎖アルカンのC9-C31を主な成分として含み、アルカンのうち80%以上はC12-C24で占められている。それに対し軽油は主に直鎖アルカンのC10-C22の混合物であり、これら異なるアルカン混合比が炭化水素分解微生物群やその活性に及ぼす影響については明らかにされていない。そこで、以前行なった低温(4度、10度)での原油分解実験で、寒冷地モンタナ州の非汚染土壌が高い原油成分分解能を示したことから、今回同じ土壌を用いて軽油の分解能力を比較検討した。
 Microcosmにおける軽油と原油の分解活性を50日間モニタリングした所、軽油ではやや長いラグピリオドが観察されたが、両者ともほぼ同様の分解速度でのアルカン成分分解が確認された。また原油及び軽油に添加した14Cヘキサデカンの14CO2への代謝測定を行った所、50日間のインキュベーション後原油では〜70%、軽油では〜55%の14CO2への代謝が測定された。また、原油分解活性に伴う微生物群衆構造の変化を分子生態学的手法により解析した。軽油分解系ではグラム陽性菌のRhodococcus erythropolis とグラム陰性菌のAchromobacter sp. に近縁な菌が主要な菌として検出された。またこれら分子学的手法で特定された環境中で炭化水素分解を担う菌を Direct plating法を用いて単離することに成功し、実際にアルカンで生育する事が確認された。原油分解系では Rhodococcus erythropolis のみが主要な菌として検出されたことから、このAchromobacter sp.は特に軽油分解(直鎖アルカンC10-C22)の分解に適応した菌である可能性が示唆された。一方 Rhodococcus sp.は異なるアルカン混合物質の分解に関与し、また低〜中温環境(4、10、25度)でも優位に存在することから、広いアルカン基質特異性及び温度適応性を有し実際の低温汚染環境下で重要な役割を果たしていると考えられる。
 また最近開発した主要原油成分であるアルカンの分解に関与する酵素遺伝子(alkB)をターゲットにしたPCR法により、機能遺伝子の多様性を解析することで異なる温度適応性を有する分子系統学的に非常に近縁なアルカン分解菌を検出することができた(Hamamura et al. 2008)。今後これら機能遺伝子をターゲットにした手法を用い、低温環境下での様々な炭化水素混合物質の分解において重要な役割を担う微生物群や分解機能などの解明が期待される。
 本研究により、寒冷土壌中での原油及び軽油分解微生物を分子学的手法と培養法を用い特定できた。また異なる炭化水素混合物汚染により同じ寒冷土壌中でも異なる分解菌が特異的に選択されることから、環境中の分解微生物群選択において汚染混合物質の組成が重要な要因であることが示された。

  
成果となる論文・学会発表等 Hamamura, N., M. Fukui, D.M. Ward and W.P. Inskeep. Assessing soil microbial populations responsible for n-alkane degradation at different temperatures using phylogenetic, functional gene (alkB) and physiological analyses. Environmental Science and Technology. 42:7580-7586. 2008