共同研究報告書


研究区分 研究集会

研究課題

雪氷の生態学(2)—融雪期の水環境とアカユキの一種、アカシボの発生要因
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 新潟大学教育人間科学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 福原晴夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

大高明史 弘前大学教育学部 教授

2

落合正宏 徳島文理大学工学部 教授

3

山本鎔子 元明治大学農学部 元明治大学教授

4

岡田久子 明治大学農学部 特別研究員

5

野原精一 国立環境研究所生物圏環境部 室長

6

井上智美 国立環境研究所生物圏環境部 研究員

7

菊地義昭 茨城大学広域水圏科学教育研究センタ- 教授

8

森野 浩 茨城大学理学部 教授

9

粂篤志 茨城大学理工学研究科 博士前期課程1年

10

鳥居高明 いであ株式会社環境生態グループ 調査員

11

木村直哉 株式会社グリーンシグマ調査部 調査員

12

北村淳 株式会社グリーンシグマ調査部 調査員

13

福井 学 北大低温研

14

兒玉 裕二 北大低温研

15

飯塚芳徳 北大低温研

16

小島 久弥 北大低温研

17

藤井正典 北大低温研

研究集会開催期間 平成 19 年 10 月 25 日 〜 平成 19 年 10 月 26 日
研究目的 雪の表面が着色する現象は,彩雪現象として,山岳の積雪地帯や氷河等から報告され、尾瀬ケ原・尾瀬沼においてもアカシボ現象として,藻類や細菌、水生昆虫の幼虫など多様な生物群集を含む複雑な系であることを明らかにしてきている。しかし、融雪時における融雪水の移動などが、アカシボの発生と密接にかかわると予想されるものの、依然として、融雪とアカシボ発生の関係、アカシボ原因生物の実体については未解明である。そこで本集会では,融雪期における積雪内の構造、融雪水の移動、融雪環境などについて、アカシボ発生のメカニズムと原因微生物についてさらに解明を進めることを目的として討論集会を行った。
  
研究内容・成果 本集会は,アカシボ現象の研究グループと雪氷学研究者との「融雪」と「アカシボの成因」をめぐる討論会として,低温科学研究所において開催された.融雪における水の動き,季節融解による成分の流出特性,尾瀬ヶ原・尾瀬沼におけるアカシボ現象の生物学的・化学的特徴,成因と原因生物をめぐる仮説,アカシボ研究の今後の課題について,を中心に報告・討論を行なった。
報告のテーマは、融雪と水みちについて(兒玉裕二, 北海道大),スバールバル諸島アウストフォンナ氷帽表面積雪における季節融解による無機溶存イオン成分の流出 (飯塚芳徳,北海道大),尾瀬ヶ原におけるアカシボ発生の概要(福原晴夫,新潟大),尾瀬沼におけるアカシボ発生の概要(野原精一,国立環境研究所),アカシボの化学的特徴(落合正宏,徳島文理大),彩雪(アカシボ)にかかわる藻類Hemitoma(山本鎔子,元明治大)アカシボの微生物生態学(小島久弥,北海道大),南極赤雪現象の微生物生態学(藤井正典,北海道大).またトピック的話題として,アカシボ中のヒメミミズ科貧毛類について(鳥居高明,いであ株式会社)と弘前トンボ池での雪中動物の季節変化(大高明史,弘前大)の2題が報告された.
 アカシボの共通的現象として, 分布が限られており地形的特徴を有する, 融雪とともに発達する,鉄の酸化と還元過程が関係する現象である,粒子状の物体(アカシボ粒子)が存在する,界面に低酸素の水が存在する,アカユキの原因藻類であるChlamydomonasを含まないことが挙げられた.
融雪期の水みちとの関係では,上からの水みちの存在は複雑ながら解明されつつあるが,アカシボの成因に関係する下からの水みちには氷板の状況や水位変化の観測が必須になること,アカシボ粒子や動物の上部への移動には雪の構造として粒子の間隙が問題であることやアカシボによるアルベードの上昇の効果も予測されることが,議論された.雪融解の特徴が融雪水のMg/Na比に現われ,その有効性の例が示され,アカシボ研究への応用が示唆された.アカシボ粒子に関しては,藻類の休眠胞子であるか,鉄の酸化と還元に関係する細菌群であるかの二つの可能性が顕微鏡観察と分子生物学的手法による解析から改めて提出された.積雪下では雪―泥界面が融雪し0℃となることから,アカシボの発生域では界面での酸素低下が起こり,2価鉄の存在が予測され,アカシボの化学的特性として2価鉄と3価鉄の共在の現象の解明が重要であることが指摘された.トピックとして,ヒメミミズ科貧毛類の分類学的重要性,青森県におけるアカシボの発生と動物の動態が報告された.
討論を通じて,融雪期における融雪水の日垂直移動,積雪構造(特に氷板)とアカシボの発達の関係及び雪―泥界面の微生物学的・化学的活性の解明の重要性,懸案であるアカシボ本体の解明の重要性が課題として明らかとなった.