共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

ドップラーレーダーとドップラーライダーデータの解析手法の開発
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 気象大学校
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 山田芳則

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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藤吉康志 北大低温研 教授

研究目的 地球環境と大気の相互作用の解明にとって、雲による熱や運動量の輸送等の効果を評価することは重要である。これらの評価のためには、雲内や雲の周囲の気流構造を精度よく求めることが必要である。低温研究所では、ドップラーレーダーやドップラーラーライダー観測を行っており、これらのデータを用いて、雲内や雲の周囲の風の場を精度よく算出するための手法を開発する。
  
研究内容・成果  MUSCAT 法 (Multi-Doppler Synthesis and Mass Continuity Adjustment Technique) (Bousquet and Chong 1998)とは、ドップラーレーダーデータから、2台のレーダーを結ぶ基線上やその付近においても気流構造が精度よく算出できる解析方法である。この方法を低温科学研究所のドップラーレーダーデータにも適用できるようにし、実際の観測データ(熱帯の対流雲データ)から風の場を算出できるようになった。この方法を用いて、大学院修士課程の学生が、熱帯域の対流雲の構造に関する解析を修士論文にまとめた。この解析方法は雲内の気流構造だけでなく、オホーツク沿岸に設置されている2台のドップラーレーダーに適用することで、海氷の動きを探知することにも用いることが可能である。ただし、MUSCAT 法に関しては、これまでに風の場の算出特性が明らかにされていないので、今後この特性を調べることが必要である。特に、空間的に小さな気流の変動を抑制するためのローパスフィルタの効果を適切に制御することが必要と考えられる。この点は、日本海降雪雲のように空間スケールが比較的小さい現象を解析する場合に重要になるであろう。
 ドップラーライダーの RHI スキャンデータから、鉛直面内の2次元的な気流構造を算出するために、MUSCAT 法と同様の解析方法を開発し、低温研ドップラーライダーで観測されたデータに適用することを試みた。この結果、フィルター項の効果が大きく、ライダーで観測される細かな空間変動がかなり平滑化されてしまうことがわかった。また、LES のデータを用いた解析においても、観測データに適用した場合と同様の結果であった。2次元用の解析システムについても、風の場の再現性に関する基礎的な研究が今後必要である。
 ドップラーレーダーデータから精度よい風の場を算出するためには、ドップラー速度データの品質管理が最も重要である。品質管理には、折り返し補正と質の悪い速度データの除去の2つの過程が含まれる。熱帯域の対流雲のように非線形性が強い現象に関しても適切に品質管理が行えるように、Yamada and Chong (1999) の方法と Hennington (1980) の方法を組み合わせたソフトウェア的なハイブリッド法を開発し、これによって品質管理が容易に行えるようになった。このハイブリッド法では、風速と風向の鉛直分布が必要であるが、この分布は近似的なものでよい点も解析する上で好都合である。さらに、この方法は、気象庁で現業運用されている dual prf (2つのパルス繰り返し周波数を用いることによって折り返し補正を行うようにしたレーダー)データにも適用できるようになっている。新たに開発したハイブリッド法に関しては、2008年日本気象学会春季大会で発表する。
  
成果となる論文・学会発表等 山田芳則、藤吉康志、新井健一郎:ハイブリッド法によるドップラー速度データの品質管理.日本気象学会 2008年度春季大会への講演申し込み済み。