共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

雪氷中の粒子態金属成分測定
新規・継続の別 継続(平成17年度から)
研究代表者/所属 山形大学理学部
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 鈴木利孝

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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飯塚芳徳 北大低温研

研究目的 雪氷中には地殻物質や火山灰などがエアロゾルとして供給され、それらの多くは難溶性粒状物として存在している。したがって、雪氷中粒状物の濃度や化学組成を明らかにすることにより、陸面から雪氷圏へのエアロゾルの負荷量や供給源に関する情報を得ることができる。本研究では、雪氷中に含まれる難溶性成分(アルミニウム等)濃度の全分解分析法を確立し、陸源エアロゾルの大気圏フラックスや供給源の変動を解析する。雪氷中粒状物の全分解化学分析により、1)空輸粒子の大気圏フラックスを定量的に把握できる、2)金属組成解析により空輸粒子の供給源同定ができることなどが成果として期待される。
  
研究内容・成果 1995~96 年に採取された第一期ドームふじ深層掘削コアを試料とした。既に得られている酸素同位対比と固体微粒子の測定結果に基づき、急激な気候変動を示す氷期終末期に該当する深度を中心に厚さ5-10cm の氷片を分取した。また、終末期近傍については高時間分解能解析を行うため、2cm 間隔で氷片を分取した。試料中の粒状物を全て回収し溶液化するため、汚染除去後の氷片全てを融解・蒸発乾固させた後、残渣を硝酸とフッ化水素酸を用いたマイクロ波分解法で全分解した。得られた溶液のFe、Al、Mn、Sr、Ba、Na をICPMS で測定、Mg、Ca をICPAES で測定し、コア中全濃度を得た。地殻風化の指標となる非海洋性アルカリ土類金属の濃縮係数(EF:Enrichment Factor)は、氷期には1 に近く、終末期から間氷期にかけて増加する傾向が見られた。EF-nssBa とEF-nssSrの相関性を調べたところ、両者の寄与率は94%と非常に高い相関が見られた。このことから、ドームふじコア中のBa とSr は、気候変動に伴い同じ化学風化過程を経て空輸されたものと推測される。また、EF-Mn とEF-nssBa も有意な相関性(寄与率66%)を示すことから、Mn の一部もBa、Sr 等と同様の化学風化を経て空輸されたと考えられる。しかしながら、EF-Fe とEF-nssBaは同時に高い濃縮を示さなかった。これはドームふじコアにおけるFe 濃縮はアルカリ土類やMn における化学風化濃縮とは別の原因によることを示している。一方できわめて部分的にではあるが、EF-Fe とEF-Mnは強い相関性を示し、かつ濃度も高い試料が存在し、Fe、Mn に富む粒子のイベント的混入が示唆された。また、終末期ⅡおよびⅣから始まる間氷期に、Fe は低濃度ではあるが高い濃縮係数を示している。しかし、終末期ⅠおよびⅢから始まる間氷期には、Fe は高いは濃縮係数を示さない。以上のことから、ドームふじコア中の金属組成変化は、(1)気候変動に依存する地表の化学風化過程の変遷と、(2)宇宙塵、火山灰等の突発的寄与の両方を記録していることがわかる。
  
成果となる論文・学会発表等 佐藤弘康, 鈴木利孝, 藤井理行, ドームふじコアの金属解析によるエアロゾル供給源変動の復元, 第30回極域気水圏シンポジウム, 国立極地研究所, 東京, 2007.
佐藤弘康, 鈴木利孝, 藤井理行, ドームふじ深層氷コア解析によるエアロゾル気候変動の研究, 2007年度日本雪氷学会全国大会, 富山大学, 富山, 2007.
鈴木利孝, ドームふじ氷床コアの金属全分析データと基本解析データとの比較, 北海道大学低温科学研究所研究集会「氷床コアによる古気候・古環境復元の高度化研究」, 北海道大学低温科学研究所, 札幌, 2007.
鈴木利孝, 佐藤弘康, 秋山瞳, 藤井理行, ドームふじ深層氷コアが示す氷期サイクルにおけるエアロゾル化学組成変動, 日本地球惑星科学連合2007年大会, 幕張メッセ 国際会議場, 千葉, 2007.
鈴木利孝, 佐藤弘康, 秋山瞳, 藤井理行, ドームふじコア中の金属成分, 国立極地研究所研究集会「南極氷床の物理・化学・生物のフロンティア3」, 国立極地研究所, 東京, 2007.