共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
山地流域における水・物質循環の比較研究 |
新規・継続の別 | 継続(平成18年度から) |
研究代表者/所属 | 信州大学理学部 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 鈴木啓助 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
石井吉之 | 北大低温研 |
研究目的 | 日本を含む東アジアでも酸性降水が観測されているが、流域内での酸緩衝機能が高く、酸性降水による顕著な被害は顕在化していない。しかしながら、北海道のような寒冷積雪域では、融雪期になると北米や北欧と類似した河川水質変動が見られる。これに対し、本州日本海側のような温暖積雪域では、冬から春にかけての河川水質は極めて変動性に富んでいる。 このように冬から春にかけての河川の水質変動は、積雪地帯における物質循環を端的に物語る現象であるが、解明すべき問題も数多く残されている。そこで、積雪地流域における水および物質循環機構を解明することを目的とする。 |
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研究内容・成果 | 乗鞍岳の東斜面において、水循環および物質循環に関する調査をした結果、以下のことが明らかになった。 (1)調査地域の降水は、年間を通じて酸性降水が多かった。また、その降水量は5月から10月の成長期に多く、年降水量の65%を占めた。 (2)降水が樹冠を通過すると、一部は樹冠によって遮断された。落葉広葉樹林では、成長期と成長休止期で、遮断率に違いが見られた。 (3)林内降水のpHは、成長休止期には林外降水に比べて低く、成長期には高くなる季節変化を示した。これは、樹体からK+などのイオンが溶脱することで、降水中のH+が樹体に吸収されるイオイ交換が起きているためである。モデル式を用いて、洗脱量、樹冠溶脱量、樹冠吸収量を計算した結果、K+、Mg2+、Ca2+の溶脱量が顕著であり、樹冠通過による付加量の95%、78%、46%を占めた。さらに、樹冠通過による付加量は、成長期に高くなった。 (4)針葉樹林内では、洗脱による乾性沈着量が成長休止期に高くなった。これは、大気中のエアロゾルが成長休止期に多いことと、広葉樹林に比べ、樹冠面積が広いことが考えられる。 (5)降水が樹冠を通過することで、林外降水<林内降水<Ao層浸透水の順に濃度が増加した。土壌に達すると、Ao層浸透水>20cm土壌水≒50cm土壌水の順に濃度が低下した。Ao層ではリターからの溶脱や、有機物の分解に伴う塩基性陽イオンMg2+とCa2+の溶脱が顕著であった。鉱質土壌層では、塩基性陽イオンが、根から樹体へ再吸収された。また、土壌中の微生物による硝化、脱窒作用が働いていた。 (6)針葉樹林、広葉樹林どちらにおいても、降水によって流入したH+と比較して、系外へ流出したH+は減少した。このことから、森林生態系における酸の中和が認められた。 (7)樹冠やAo層からの塩基性陽イオンの溶脱量と鉱質土壌層で減少した塩基性陽イオン量は、どちらも広葉樹林で多かった。したがって、広葉樹林のほうが、植生による再吸収とリターや樹冠からの溶脱といった内部循環が活発であり、樹冠やAo層での酸中和能力が高いと考えられる。 |
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成果となる論文・学会発表等 |
Nakazawa, F. and Suzuki, K. (2008): The alteration in the pollen concentration peak in a melting snow cover. Bulletin of Glaciological Research, 25, 1-7. 村本美智子・奈良麻衣子・浅利朋子・鈴木啓助(2007):乗鞍高原の森林生態系における物質循環-1. 林内降水の化学特性と季節変化-.日本水文科学会誌,37,73-83. 村本美智子・大浦典子・奈良麻衣子・鈴木啓助(2007):乗鞍高原の森林生態系における物質循環-2. 針葉樹林内と広葉樹林内における水循環と化学物質循環.日本水文科学会誌,37,85-92. 田中基樹・鈴木啓助(2007):山岳地の渓流水質形成に及ぼす流域平均傾斜の影響.日本水文科学会誌,37,115-121. 田中基樹・鈴木啓助(2007):山岳積雪中の化学成分の空間分布とその成因.雪氷(日本雪氷学会誌), 69, 371-381. 鈴木啓助(2007):降雪・積雪・融雪の化学.水環境学会誌,30,62-66. |