共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北方森林土壌の微生物群集のゲノム学的方法論による解明の試み
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 小笠原直毅

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

服部正平 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授

2

林哲也 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 教授

3

笠原康裕 北大低温研 准教授

研究目的  土壌の微生物群集構造解析は、土壌環境中に存在する微生物数、群集構造、多様性、土壌機能との関連性、微生物間や植物などの生物間相互作用などを明らかするものである。環境DNAそのものを網羅的に解読するメタゲノムにより、ゲノム生物学の手法や考え方を取り入れた「環境コミュニティー研究」が展開しつつある。単なるメタゲノムのDNA情報からのアプローチだけではなく、ポストゲノム学的解析法(トランスクリプトミクスやプロテオミクス)の導入により、本来活動・機能している微生物を解析することが可能になると予想される。本研究では、北方森林土壌を研究対象として、機能ゲノミクスやプロテオミクスなどの可能性を試みる。
  
研究内容・成果  単一種の培養細胞を対象とするゲノム学が、多種多様な微生物種を抱え複雑な構造を持つ土壌を対象とするのは大きな挑戦である。そのため、微生物生態学を含め異分野の研究者の共同が必要となる。そこで、本年度は、専門が異なる研究者に自分の研究成果を話していただき、森林土壌の微生物群集のゲノム学的方法論による解明の可能性についての意見交換を行った。
 服部正平氏(「ヒト腸内細菌叢のメタゲノム解析」)の報告: 約1,000種の細菌種から構成されているヒト腸内細菌叢は、人の誕生とともに形成され、ヒトの健康と病気に密接に関係している。腸内細菌の大部分が嫌気性菌で分離培養が困難であるため、その構成菌種、遺伝子組成、代謝物、遺伝子と生態機能の関係、菌種組成を決定する因子、メタゲノムのダイナミクスなどの詳細はわかっていない。メタゲノム解析によるヒト腸内細菌叢の実体およびその生命システムの解明をめざして、乳児から大人に至るさまざまな個人の腸内細菌叢のメタゲノム解析結果について紹介した。
 林 哲也氏(「細菌ゲノムの進化と多様化における遺伝子の水平伝播の役割〜病原性大腸菌を例として〜」)の報告: O157を中心とした病原性大腸菌を例として、ゲノム研究によって明らかとなってきた病原細菌の進化・多様化のメカニズムを紹介した。今後の細菌ゲノム研究では、病原細菌とともに環境中に存在する多数の細菌も重要な研究対象となることは確実であるが、病原細菌研究から得られた細菌の進化や多様性に関する知見の多くは、環境中の様々な細菌にも当てはまる可能性が高いと考えられる。
 小笠原直毅氏(「枯草菌の細胞システムのゲノムからの理解」)の報告: 枯草菌について最近、遺伝子間領域に高密度にプローブセットを配置したタイリングチップを作成し、RNAポリメラーゼや転写制御タンパク質のゲノム上の分布の解析や必須遺伝子の情報を用いてゲノムサイズを小さく、よりシステム的理解が容易な枯草菌を作成するプロジェクトを進めている。 転写、複製、修復等に関与するタンパク質群が、細胞内で、協調的に、あるいは、競合的に働いている姿を明らかにすることにより、ゲノムの動作原理の新たなレベルでの理解を可能にすると考えられる。
 腸内細菌叢メタゲノム、大腸菌株間の詳細なゲノム解析とアレイ解析、タイリングチップアレイ解析などの先端的ゲノム解析技術を、早急に環境試料にそのまま適応することは現段階では非常に難しい。しかし、ここ1,2年のDNAシークエンサーの技術開発と発展により、数年後の近い将来、低価格・短時間で、容易に大量のDNA情報を得ることができるメタゲノム解析を行える時代が到来する。メタゲノム情報が得られれば、次段階のトランスクリプトミクスやプロテオミクス研究も急速に発展し、微生物生態学が目指す『機能と代謝を知るコミュニティー研究』に繋がっていく。
  
成果となる論文・学会発表等