共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

星間分子の生成・進化に関連した極低温氷表面でのイオン化学反応
新規・継続の別 継続(平成18年度から)
研究代表者/所属 理化学研究所 中央研究所
研究代表者/職名 先任研究員
研究代表者/氏名 小島隆夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡部直樹 北大低温研

研究目的 宇宙空間に浮遊する極低温氷星間塵上での化学反応は,星間空間における分子の生成・進化の鍵を握っている.そうした化学反応の素過程を研究すべく,極低温氷表面を用いた実験が低温研・雪氷惑星グループ他,世界のいくつかの研究機関で行われてきたが,イオンを含む氷表面反応素過程に関する実験は,その重要性にもかかわらず,まだほとんど行われていない.本研究課題は,雪氷惑星グループのもつ優れた氷表面実験技術に理化学研究所のイオンビーム制御技術を加え,当該グループの研究をイオンを含む反応素過程へと発展させ,天文学的・化学的に重要な反応素過程の詳細を明らかにしていくことを目的としている.
図1.約9KのH2O/COアモルファス氷表面にN_2^+イオンを14.5時間入射した後の赤外吸収差分スペクトル(赤).  
研究内容・成果 昨年度末に組み上げた実験システム(既存の氷表面化学反応赤外線観測装置に,新たに製作した専用分子イオン源をインストールしたもの)を用いて氷表面でのイオン分子反応の試験測定を重ね,その過程で得られた知見をもとに装置の調整・改良を行った.
 イオンを氷試料表面に付着しやすくするためにはイオンの照射エネルギーをできるだけ低くした方がよいと考えられるが,イオン源からのイオン引き出し効率や質量選別の分解能は,イオンビームのエネルギーを数百eV程度にしなければ十分な値が得られない.そこで氷試料を付着凝結させる金属基板(アルミニウム製)をバイアスし,イオンを氷表面直前で数eV程度まで減速する手法で試験測定を開始した.しかし,テスト測定を重ねても十分な反応信号が観測されなかったため,より詳細・高精度なイオン軌道シミュレーションを行った結果,基板バイアスだけではイオンビームの偏向・発散が著しく,十分な量のイオンが試料表面に到達していないことがわかった.そこで,減速によるイオン強度の損失を抑えるべく,試料直前のイオンビーム行路上に減速レンズ系を設置することにし,イオン軌道シミュレーションを行って電極群を設計・製作した(加工は低温研技術部に依頼した).この減速レンズ系をインストールしたことにより,イオンビームを十数eV〜数eV程度まで減速した際のイオン損失を大幅に抑えられるようになったが,それでもなお,十数eV程度にまで減速すると,イオン種によってはイオン強度が半分以下に落ち込んでしまうこともわかった.
 この状況下で種々のテスト実験を行ったところ,一部に微弱ながら氷表面イオン分子反応による生成物と思われる赤外線ピークを観測した.図1の赤線はH_2O氷表面上にCOを付着させた後,20eV,0.4nAのN_2^+イオンを45°の角度で約14.5時間照射した後の赤外吸収差分スペクトルである.1620cm^-1の位置に微弱ながらピークがみられる(周辺が窪んでいるのはH_2O氷の減少を示す[このあたりがH_2Oの幅広な吸収バンドと重なっているため]).1620cm^-1はNH_3の変形振動に対応する.イオン源の電源をすべてOFFにしてガスだけ流して測定したスペクトル(青線)ではH_2Oの減少や1600cm^-1のピークは見られないので,これらのピーク/減少はイオン源から回り込んだN_2分子によるものではなく,明らかにイオン照射の効果である.しかし,観測されたピークは照射したイオンの総量(2×10^14個)に対して非常に微弱で,入射したイオンが表面に留まる確率がかなり小さいことがわかった.現行の赤外測定では対象分子数10^13個程度でようやく明確なピークが得られる.今後効率的な測定を続けていくためには検出手法もしくはイオン強度のいずれか(または両方)でひと桁以上の改善が必要であることがわかった.改善策を検討中である.
図1.約9KのH2O/COアモルファス氷表面にN_2^+イオンを14.5時間入射した後の赤外吸収差分スペクトル(赤).  
成果となる論文・学会発表等