共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
不凍タンパク質の氷結晶成長阻害効果に関する光およびX線散乱法による研究 |
新規・継続の別 | 新規 |
研究代表者/所属 | 大阪大学理学研究科 |
研究代表者/職名 | 助教授 |
研究代表者/氏名 | 金子文俊 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
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所 属
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職 名
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1 |
川口辰也 | 大阪大学大学院理学 | 助手 |
2 |
古川義純 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | 寒冷な条件下で生命活動を維持している動植物は、様々な耐寒・対凍結戦略をもっている。その一つに北海に生息する魚類に見られる不凍糖タンパク質(AFGP)の利用がある。魚類の体液中に含まれているAFGPが、氷と水の界面に吸着することで、氷の結晶成長を抑制している。最近の赤外ATR分光法による研究によると、氷表面に吸着する場合に、AFGPの分子形態が大きく変化することが示唆されている。本研究では、過冷却水中においてAFGPが前駆的な形態変化を行うかどうかについて、X線散乱法を用いて調べた。また予め結晶核剤の役割をする超微粒子を分散させた場合におけるAFGPの氷結晶成長における影響を調べた。 |
研究内容・成果 | AFGPは(Ala, Ala, Thr)の繰り返し構造をもち、このThrに糖鎖が結合している。分子量の異なる3種類のAFGP、Type 8 (MW: 2.8k)、Type 5 (13k)、Type 4 (20k)について2.5 - 10 mg/ml水溶液を準備し、-10℃より15℃までの温度範囲、波長1.0 A、カメラ長2mの条件で小角X線散乱実験を行った。X線源としてSPring-8 のビームラインBL42Bを用いた。また比較のために、典型的な球状蛋白質であるリゾチーム(14.4 kDa)についても、測定を行った。 図1に、AFGP 5とリゾチームのKratkyプロットを示す。リゾチームは球状蛋白質に特有パターンを示し、散乱ベクトルkが約1nm-1において極大をもつ。一方AFGP 5のKratky プロットは、kが約0.5nm-1付近で傾きが変化する単調増加関数となっている。これは溶液中に分子が広がったランダムコイル鎖に特徴的な散乱パターンである。リゾチームとAFGPの散乱パターンは、温度に依存した多少の変化は見られるものの、それぞれの特徴は維持している。従って、どちらの蛋白分子においても15℃から過冷却状態の-10℃までの温度域において、分子形状に著しい変化が生じない結論できる。以上より、最近赤外ATR法で明らかになったAFGPの氷/水界面でのα-へリックスの増大は、氷の面にAFGPが付着することによって誘起される構造変化であると推測できる。 小角X線散乱の低角領域(k=0.1~0.6 nm-1)のGuinierプロットから得た慣性自乗半径Rgにも、AFGP 5の分子形態の特徴は反映されている。分子量にはリゾチームとAFGP 5の間でそれほど大きな違いはないにも関わらず、AFGP 5のRgはリゾチームのほぼ倍の値であり、AFGPの分子鎖は水溶液中で著しく拡がった形態であることが分かる。リゾチームは変成しない限りは、温度に依存したRgの変化はほとんど見られないのに対して、AFGP 5では15℃の3.1 nmから-10℃の3.7 nmまで、降温とともに徐々に増大する傾向を示すことが明らかになった。以上のAFGP 5と共通する特徴が、分子量が異なるType 4と8のAFGPにおいても確認された。 ヨウ化銀の超微粒子を核剤として分散させたときに、AFGPの添加の有無が氷形成にどのような影響を与えるかについても調べた。ヨウ化銀を添加した場合は通常速やかに水は凍結するが、これにAFGP(Type 8を主体とした混合物)を添加すると5 mg/mLの低濃度においても凍結が著しく抑制されることが明らかになった。 |
成果となる論文・学会発表等 |