共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫のストレス応答分子機構
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

吉賀豊司 佐賀大農学部 助教

2

島田公夫 北大低温研 助教

研究目的  昆虫は種々の環境ストレス(物理的、化学的、生物的)に曝されされながらも、地球上で生態的反映を遂げて来た生物と言える。元来、物理学で物体の「ひずみ」を意味するストレスという言葉は、1940年代にカナダの生理学者H. Selyeが『ストレス学説』を提唱して以来、医学・生物学分野でも一般的専門用語として用いられるようになった。ストレスに関する研究は現在、哺乳類を中心に内分泌学、分子生物学、生化学的解析が盛んになされているものの、それに比べ昆虫におけるストレス研究は残念ながら大きく遅れを取っている。本研究では、昆虫のストレス応答に焦点を当て、ストレス依存的に発現レベルが変動する遺伝子の同定を目指した。
  
研究内容・成果  本研究では、キイロショウジョウバエのストレス応答性遺伝子の同定とその生理機能解析を目的に研究を遂行した。
1, ストレス応答性遺伝子の同定
 キイロショウジョウバエ幼虫を用い、種々のストレス条件下(温度、酸化、振動、忌避物質など)に、その発現が脳神経細胞内で顕著に変動する遺伝子の同定を試みた。手法としては、感度の点で優れるディッフェレンシャルディスプレイ法を用いた。その結果、キイロショウジョウバエ幼虫にとって忌避物質となる酢酸オクチルを与えた幼虫脳内で有意に発現上昇する遺伝子としてCG14686遺伝子が同定された。この遺伝子は、機能が全く分かっていない遺伝子であるが、その一次構造から細胞膜に存在する膜タンパク質であることが予想された。同定後、再度、種々のストレス条件に曝したところ、忌避物質以外にも低温、高温、振動、寄生といったほぼ全てのストレスによってその遺伝子発現上昇が認められた。特に、低温条件下(摂氏4度)でもっとも顕著な転写レベルの上昇が見られた。さらに、各種組織での発現を調べたところ、脳以外の外皮、脂肪体、中腸といった器官での発現が確認されたものの、脳における発現レベルが最も高いことが分かった。
2,ストレス応答性遺伝子CG14686の生理作用の解析
 同定したストレス応答性遺伝子CG14686の生理機能を明らかにする為に、この遺伝子の生体内での人為的発現変動を試みた。そのため、特異的強制発現系統、さらには、発現抑制系統のトランスジェニックショウジョウバエを作成した。こうして確立したトランスジェニックバエの遺伝子表現系を観察したが、野生型のキイロショウジョウバエと著しく異なることはなかった。そこで、野生型とトランスジェニックバエ系統を低温(摂氏4度)ストレス状況下に置いたところ、明らかの違いを見た。すなわち、強制発現系トランスジェニックバエは野生型に比べ低温ストレス下での死亡率は有意に上昇したのに対して、発現抑制系統では逆に有意に死亡率の低下が見られた。すなわち、一つの可能性として、今回同定した機能未知遺伝子CG14686は、低温ストレスを組織細胞内に伝える一種のレセプターのような機能を果たしているものと解釈できる。今後、さらに解析を進めることによって、全く新しい低温ストレス情報伝達系の存在を証明できるものと期待している。


  
成果となる論文・学会発表等 河野剛、早川洋一 『ショウジョウバエ幼虫におけるストレス応答の分子機構解析』応用動物昆虫学会第52回大会、2008年3月27日