共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	中央アジア高山域の氷河コア解析
新規・継続の別	新規
研究代表者／所属	名古屋大学大学院環境学研究科
研究代表者／職名	准教授
研究代表者／氏名	藤田耕史

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	竹内望	千葉大学自然科学研究科	助教授
2	岡本祥子	名古屋大学環境学研究科	M2
3	的場澄人	北大低温研
4	成田英器	北大低温研

研究目的	人間活動の影響を色濃く記録していることが期待されるロシア・ベルーハ氷河にて、氷河コア試料が取得された。これまでの解析によって、50m深までの年代決定を行い、人間活動の履歴を読みとることが期待されている。その一方で、氷の粒径や気泡密度、氷板解析による温度情報の抽出といった解析や、微生物試料の抽出・分析の作業は、コア処理施設の問題から立ち後れていた。これまでにも、気温の復元を試みた研究はあるが、融解水の再凍結過程を経てできる氷板の厚さは気温以外にも様々な気象要素の影響を受ける。そこで、低温研において融解再凍結過程に絡む要素の分析を行い、氷板などの要素から、より信頼の置けるやり方で気温復元を試みる。
ベルーハ氷河の位置　スイスと日本のコアにおける、涵養量とMFPの比較　様々な手法にて復元した、夏季気温の比較
研究内容・成果	本研究では、2003年8月、ロシア・アルタイ山脈ベルーハ氷河で掘削されたアイスコアに含まれる氷層を用いて夏期気温の復元を行い、これまでに提案された復元方法の妥当性について再検討を行った．極域などのアイスコアで利用される、酸素安定同位対比について検討を行ったところ、、ベルーハ氷河の麓の観測所における降水中の酸素安定同位体比と気温の間には季節変化の有意な関係が見られたが、アイスコア中の酸素安定同位体比と気温の間には有意な関係は見出せなかった．これは、気温情報が堆積・削薄・圧密の過程で失われたためだと考えられる．同じベルーハ氷河でスイスの研究グループによって2001年に掘削されたアイスコアの、年間涵養量、年層中の氷層の割合を表すMFP（melt feature %）の結果との比較を行った．年間涵養量の間には有意な関係は見出せなかった．一方、MFPは有意な相関を示した（r=0.45， p＜0.01）．これにより、掘削場所が近くても、涵養量は風や地形の影響を受けて異なるのに対し、氷層に影響を与える気温や日射の情報はよく保存されていることが示された．夏期気温復元を行うために、ベルーハ氷河の麓に位置するアッケム気象観測所の気温データ（1951年から2003年）とベルーハ氷河上に短期間設置した自動気象観測装置の気温データを用いてベルーハ氷河上の約50年間分の夏期気温を求め、アイスコアから推定した夏期気温の検証に用いた．氷層からの夏期気温復元には二つの方法を用い、それぞれについて検討を行った． ①　まず、アイスコア中の氷層厚と上で求めた基準となる気温との相関関係（r=0.31， p＜0.05）から回帰式を求め、夏期気温の復元を行った．しかし、この結果は、元の夏期気温と比べ、非常に変動幅の小さいものであった．そこで、氷層厚に加えて、年間涵養量を考慮した重回帰式を用いた結果、改善が見られた（r=0.46， p＜0.01）．この改善は、降水量が多い場合、日射量が減り、気温が下がるということを示唆する．また、氷板がすべて日射によって形成されたと仮定し、抽出することによって今後さらに良い結果が得られる可能性があることが示唆された． ②　スイスの研究グループが採用した、氷層厚と融解量、融解量と夏期気温の二つの関係式を用いて夏期気温の復元をする方法を検討したところ、気温が低く復元されてしまうことがわかった．解析の結果、この方法でもちいた融解量と夏期気温の関係式が、アイスコアが掘削されるような涵養域ではなく、消耗域で得られた経験式であることが示唆された．裸氷が露出するなどしてアルベドが低い消耗域での式を用いた場合、気温が同じでも、涵養域に比べて融解量が多くなるためにより、厚い氷層が形成されることになる．したがって、この関係式に、涵養域の氷層を当てはめた場合、実際よりも低い気温が出てしまうことになる．
ベルーハ氷河の位置　スイスと日本のコアにおける、涵養量とMFPの比較　様々な手法にて復元した、夏季気温の比較
成果となる論文・学会発表等