共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

カムチャッカ半島山岳地域における地生態学的研究
新規・継続の別 継続(平成15年度から)
研究代表者/所属 上越教育大学
研究代表者/職名 准教授
研究代表者/氏名 山縣耕太郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

西城潔 宮城教育大学 准教授

2

大月義徳 東北大学 助手

3

長谷川裕彦 明治大学 非常勤講師

4

曽根敏雄 北大低温研

研究目的 カムチャッカ半島の森林植生は,シベリアと並んで最も北に位置する森林であり,永久凍土や氷河・周氷河作用といった厳しい環境とのせめぎ合いの中で成立している.また,変動帯に位置する半島は,起伏に富むため沿岸部から内陸部に向かって気候環境が大きく変化する.さらには,カムチャッカ半島中央部は,永久凍土の分布限界に近く永久凍土が不連続に分布している.カムチャッカ半島の中央部は,こうした地理的な位置にあり,狭い範囲に多様な環境条件が存在する.このため植生は,単純な垂直分帯ではなく,複雑な分布を呈している.本研究では,このような周氷河地域の環境条件と植生との関係を多角的に明らかにすることを目的としている.
  
研究内容・成果 昨年度までの調査によって,永久凍土の分布限界付近にある,カムチャッカ半島中央部エッソ周辺では,高度や地形,水分条件および永久凍土分布の影響を受けて,植生タイプの分布が決定していることが予測された.特に永久凍土の存在が,森林植生の分布を強く規定していることが推定された.そこで,通年の地温観測を行ない以下の結果が得られた:1)永久凍土は主に北向き斜面に分布するが,表層物質の熱伝導特性が深く関係する;2)北向き斜面にはカラマツが,南向き斜面にはカンバが優先している.カラマツは春先に融解層が薄い場所にも生育しているのに対して,カンバは春先に融解層が他より深い場所に分布する.
今回の観測によって,カラマツと,カンバの立地する地点の凍土環境の違いが確認された.同様の関係は,ハイマツとミヤマハンノキの間にも成立する.カラマツ林,ハイマツ林下に形成されている永久凍土は,カラマツ,ハイマツの厚いリター層や細根マット,ミズゴケなどの熱伝導率の低い表層物質によって維持されており,カラマツ,ハイマツと永久凍土の間には相互作用が成立している.
また,周氷河地域に位置する本地域においては,過去および現在における周氷河作用による斜面物質移動が,植生分布に影響を及ぼしている可能性が考えられる.今年度は,エッソ郊外の山地斜面に分布する周氷河地形(岩塊被覆ロウブ地形)の測量と地温データ回収,解析を行った.地温データを解析した結果,礫層が堆積する表層付近で温度変化が急激に生じていたいっぽう,シルトが堆積する深部の温度変化は,比較的緩やかであった.前者は礫層空隙に生じる移流によって,後者はシルト層の熱伝導によって地温が変動するためと考えられる.また,2004年8月と2006年6月の測量データを比較した結果,岩塊被覆ロウブ地形は1年あたり約2〜10cmの速度で流動していることが明らかとなった.傾斜と流動速度には正の相関関係があり,季節的な融解層(活動層)が融解するときに重力方向に生じる変形がこの流動に寄与していると考えられる.このように,表層物質の違いに応じて,岩塊斜面では,周氷河性の斜面物質移動が活発で,森林限界が押し下げられていることが明らかになった.

  
成果となる論文・学会発表等