共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

Arctic-HYDRA に関係した大河川水循環の研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 海洋研究開発機構
研究代表者/職名 プログラムディレクタ
研究代表者/氏名 大畑哲夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

鈴木和良 海洋研究開発機構IORGC 研究員

2

馬 燮銚 海洋研究開発機構FRCGC サブリーダー

3

太田岳史 名古屋大学生命農学研究科 教授

4

石井吉之 北大低温研

5

兒玉裕二 北大低温研

研究目的 IPY(第4回国際極年)に対応した研究として、Arctic-HYDRAという国際計画がはじまることになった。環北極海諸国を中心に8カ国ほどが集まり、北極海の水循環の実態と機構をより精度良く捉え直そうという計画である。日本のグループは、今までレナ川流域で観測研究を実施しており、その発展的研究により本計画に貢献することを計画し、申請して参加が認められた。現在、国際レベルで調整中であるが、平成18年度には、国内での研究体制・実施体制を確立する必要がある。本研究では、日本人グループが目指すのが適当と考えられる研究課題の検討・選択、国際レベルの要請に対する対応を議論し、確定し、実施するものである。
  
研究内容・成果 平成19年2月13, 14日に関係者で会合を開催し、検討を行った。行った作業は、課題の現状把握、問題の検討、そして今後の主要研究課題である。以下が、検討結果の概要である。
 北東ユーラシアには、レナ川、エニセイ川、オビ川と、アムール川の4つの大河川が存在している。これらのうち、北極海に注ぐ3つの大河川(レナ、エニセイ、オビ)で過去の流量が調べられ、レナとエニセイでは最近の約70年の間に流量が増加していることが指摘され、特に流域の大部分が永久凍土に覆われているレナ川では顕著な増加を示していること報告されている。その原因は永久凍土の融解やダム建設の影響、降水量の変化、森林火災の影響などが指摘されているが特定されていない。さらに、こうした長期トレンドに加え、年々から10年スケールの河川流量の変動も見られ、このような変動メカニズムの理解には凍土のプロセスが流出に及ぼす影響の理解が不可欠である。
 北極海やオホーツク海へ淡水を運ぶこれらの河川の流出は、北極海などでの海氷生成・深層水循環を介して地球規模の気候変動を引き起こす可能性があり、流出プロセスとその変動の解明は極めて重要である。また、河川を通して水とともに輸送されるアルカリ物質やシリカは、海洋の炭素循環に大きな影響を及ぼし、これも地球の気候変動を駆動する要因になりうる。
しかしながら、永久凍土帯での小流域での研究は極めてまれである。その理由は、地球上の永久凍土の分布の偏りにあろう。北米では永久凍土が存在する流域がほとんど無く、永久凍土帯の流域は北ユーラシアに限定されるためである。シベリアにおける永久凍土帯での流出プロセスについては限られた結果が存在するのみである。
 大河川の流出の変動プロセスを理解するためにも、永久凍土が介在するそれらの支流の中小規模流域における流出プロセスの解明は重要で,特に、河川流出水の起源(凍土の融解、地下水、降水などの水のsource)を特定することが必要である。そのためには、流量に加え、同位体や溶存成分などのトレーサー情報がきわめて有効である.南北に流れる河川は、緯度方向に降水の同位体比の大きな勾配がある。また、内陸部では冬期の積雪と夏の降水の同位体比も差も極めて大きく、流域内の水循環の変化を河川水の同位体比で検出できる可能性が高い。現時点では、北ユーラシアにおける水の安定同位体比の情報は不足しているため、変化の検出は可能でも原因の解析は容易ではないが、降水に加えて、土壌水、氷、河川水等の同位体比が明らかになってくれば、流出変動の解析に有効な情報を与えると期待される。
 このような観点から、(1)凍土が介在する流出プロセスの解明、(2)流出変動の原因を解明する、(3)融雪流出のプロセス解明、(4)北ユーラシア大河川の流出特性の解析と比較、(5)モデル構築、が主要課題であることを確認した。
  
成果となる論文・学会発表等