共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

環オホーツク海域における微量栄養物質(鉄)の供給過程に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 西岡純

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

小埜恒夫 北海道区水産研究所 室長

2

大木淳之 北海道区水産研究所 特別研究員

研究目的   本研究は、環オホーツク海域である親潮域海洋表層の鉄濃度の変動と植物プランクトン増殖量の変動を、季節的・経年的に観測し、天然の鉄の供給が海洋の植物プランクトン増殖量をコントロールしているか否かを定量的に評価することを目指す。特に海洋循環由来の鉄と大気エアロゾル起源の鉄を分けてその供給量を定量的に把握することを本共同研究の目的とする。

親潮域表層のa)溶存鉄濃度,b)硝酸塩濃度の周年変動およびc)黄砂観測日数  
研究内容・成果 研究の概要:西部北太平洋亜寒帯域では生物生産の季節的・経年的変動が観測されている。鉄が海洋基礎生産の制限要因になり得ることから、基礎生産の変動メカニズムを解明するためには、海洋表層への鉄の供給量と基礎生産者である植物プランクトン増殖との関係を定量的に評価していく必要がある。一般に陸から離れた外洋域表層への鉄の供給源は、大気中のエアロゾルや中深層からの回帰、水平的な移送が考えられるが、実海域での鉄の供給過程、その季節的・経年的変動に関する定量的な知見は少ない。我々は西部北太平洋亜寒帯海域の一部である親潮域および混合域において、2003年度より海水中の鉄濃度の時系列観測を継続し、当概海域における鉄濃度の季節・経年変動を明らかにしてきた。本研究では2005年1月から2006年1月まで全季節を通した観測によって得られたサンプルの分析を行い,表層鉄濃度の周年変動を明らかにした。

研究・観測方法:親潮流軸を横切る水産総合研究センター観測定線Aラインにおいて、2005年1、3、5、7、9、12月、2006年1月に鉄濃度の観測を行いサンプルを採取した。北水研調査船北光丸のCTD-RMS採水システムをクリーン専用に整備し、酸洗浄した10 LニスキンX採水器を装着して各測点で最大3000m深度まで鉛直的に採水を行った。CTD-CMS採水の無汚染性を確認するために、ケプラーワイヤーにクリーン採水器を連装しての採水も数測点で行った。サンプルは船上で孔径0.22μmフィルターでろ過し、ギ酸-アンモニウム緩衝液を加えて、北大低温研内のクリーンルームにて化学発光検出法にてFe(III)の鉄を測定した。

結果と考察:親潮域表層10 mの溶存鉄濃度は、冬季1月の全エリア平均で0.82 nMと北太平洋亜寒帯域外洋夏季の値と比べて高い濃度が観測された。2005年は春季ブルームが5月の観測時になっても発達しておらず、5月の観測時に表層の鉄濃度の枯渇はどの測点でもみられなかったが、7月および9月の観測では主にA11より北側の測点で、表層鉄濃度の枯渇が観測された。12月にはA7、A9、A11で再び鉄濃度が増加し、1月には再びすべての測点で鉄濃度の増加が見られ、2006年1月には全エリア平均で0.63 nMとなった。これらの結果より、親潮域および混合域表層では、1)冬期の溶存鉄濃度上昇が毎年安定して発生している事、2)植物プランクトンブルーム後の夏期に溶存鉄が枯渇する側点が多数みられる事、そして3)秋季から冬季にかけて混合層深度の増加と共に再び鉄濃度が増加する事、等の周年変動パターンが実測により確認された。観測された周年変動パターンは大気ダストの降下量の周年変動パターンよりも海洋中層からもたらされる表層硝酸塩濃度の周年変動パターンと良く一致していることから,親潮海域表層の鉄濃度の周年変動には下層から供給される鉄濃度の高い水塊の寄与が大きいと考えられた。

親潮域表層のa)溶存鉄濃度,b)硝酸塩濃度の周年変動およびc)黄砂観測日数  
成果となる論文・学会発表等 J. Nishioka, T. Ono et al., Iron supply to the western subarctic Pacific: Importance of iron export from the Sea of Okhotsk, Submitted, JGR

西岡 純,小埜恒夫,大木淳之,2007,親潮域および混合域における鉄濃度の周年変動,日本海洋学会春季大会発表