共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

星間分子の生成・進化に関連した極低温氷表面でのイオン化学反応
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 理化学研究所
研究代表者/職名 先任研究員
研究代表者/氏名 小島隆夫

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

渡部直樹 北大低温研 助教授

研究目的 宇宙空間に浮遊する極低温氷星間塵上での化学反応は,星間空間における分子の生成・進化の鍵を握っている.そうした化学反応の素過程を研究すべく,極低温氷表面を用いた実験が低温研・雪氷惑星グループ他,世界のいくつかの研究機関で行われてきたが,イオンを含む氷表面反応素過程に関する実験は,その重要性にもかかわらず,まだほとんど行われていない.本研究課題は,雪氷惑星グループのもつ優れた氷表面実験技術に理化学研究所のイオンビーム制御技術を加え,当該グループの研究をイオンを含む反応素過程へと発展させ,天文学的・化学的に重要な反応素過程の詳細を明らかにしていくことを目的としている.
図1.約7Kのアモルファス氷表面に CH_4^+ イオンを約15時間入射した後の赤外吸収差分スペクトル(赤). 図2.ベースラインを整えてスケールしたもの.イオン照射時にのみ観測されたピークを赤の矢印で示す. 
研究内容・成果 極低温氷表面でのイオン-分子反応を観測するための装置開発は,専用イオン源の製作と現有氷表面化学反応観測装置の改造,およびこれらを統合し一体化しての調整からなる.イオン源に関しては先年度より設計・製作を開始し,オフライン状態でのテスト・調整を先年度中に完了していたので,本年度は氷表面化学反応観測装置の部分改造とイオン源の実装・統合を行い,装置全体の調整を兼ねた予備測定で入射イオンに起因する氷表面でのイオン-分子反応と思われる赤外吸収スペクトルを観測した.以下,これらの内容を順に述べる.
 氷表面化学反応観測装置の部分改造は,入射イオン量のモニターと氷表面への入射(衝突)エネルギーの制御を可能にするためのものである.この観測装置は冷凍機によって冷却された超高真空槽中のアルミニウム製基板の上にアモルファス氷薄膜を生成し,そこに特定の原子または分子を一定量付着させたうえで,さらに別の原子/分子を追付着させ,その過程での赤外吸収スペクトルの変化を観測するしくみになっている.そこでアルミ基板を電気的に浮かせて信号線を真空外に接続し,入射イオン電流をモニターできるように改造を行った.これにより基板に独立の電位を与えて入射イオンを減速し,入射エネルギーをコントロールすることもできる.なお,電気的に絶縁しつつ,熱的には冷凍機との熱交換が十分であるような熱接触を保つため,特注のサファイア単結晶板を用いた.
 イオン源の実装に際しては,イオン源ガスの観測装置主真空槽への流入を極力抑えるために十分な差動排気ステージを設けなければならない.しかしながら差動排気ステージは径の小さな穴で真空槽を仕切ることになるので,通過できるイオン量は減少する.そのため実装した場合に観測装置主真空槽の標的試料に到達するイオン強度は,オフラインで得られていた強度よりも小さくなり,その条件下で最適化するためにイオン光学系の再調整が必要となる.実装後,CH_4^+イオンで試験・調整した結果,氷基板上で数nAのイオン強度を得た.イオン光学系のアラインメントなどにまだ調整の余地は残されているものの,まずまずの値といえる.
 基板上である程度のイオン強度が得られたので,装置の統合調整を兼ねた予備的実験としてアモルファス氷表面へ上述の CH_4^+ や CH_3^+ イオンを照射し,赤外吸収スペクトルの変化を見た.これらのうち CH_4^+ の結果を図1および図2に示す.イオン源から主真空槽に流入して試料に吸着した CH_4 分子などのピークの他,イオン照射時にのみ見られるピーク(未同定)もあり,イオンの照射によって氷表面で何らかの化学反応が起きたためと考えられる.装置性能を向上させ,より詳細な観測を行うのが今後の課題である.
図1.約7Kのアモルファス氷表面に CH_4^+ イオンを約15時間入射した後の赤外吸収差分スペクトル(赤). 図2.ベースラインを整えてスケールしたもの.イオン照射時にのみ観測されたピークを赤の矢印で示す. 
成果となる論文・学会発表等