共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

冷温帯林における針葉樹の光合成と形態の相互作用に関する研究
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 神戸大学自然科学研究科
研究代表者/職名 助手
研究代表者/氏名 石井弘明

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

原登志彦 北大低温研

研究目的 本研究の目的は針広混交林における針葉樹の光合成能を規定する形態的・生理的形質を明らかにすることである。針葉樹は針葉一枚一枚の形態からシュート(葉と枝軸を含む単位)内における針葉の3次元的な配置、シュートの樹冠内にける配置、樹木全体の樹形に至るまで、様々なレベルにおいて形態が多様に変化する。針葉樹は広葉樹と比べて葉面積指数(単位土地面積あたりの葉面積)が高く、樹冠が深い(低いところまで葉がついている)という特徴をもっている。針葉樹は樹冠の上部から下部にかけて減少する光を効率的に捉え、光を無駄なく利用することによって広葉樹よりも高い成長量を実現している。
図1:エゾマツの樹冠上部(上段)および下部(下段)のシュートと葉の断面の形態 図2:アカエゾマツの樹冠上部(赤)および下部(青)シュートの光合成速度(シュート投影面積あたり) 
研究内容・成果 針葉樹における葉、シュートおよび枝の光獲得効率の測定
様々な造林樹種を対象に樹冠上部から下部にかけて葉やシュートをサンプリングし形態の測定を行う。 葉やシュートの光獲得効率の指標として、以下の項目を様々な樹種で測定する:
[1] SLA = 葉面積 / 葉乾重
この指標(Specific Leaf Area, 比葉面積)は葉への物質投資あたり実現した光獲得面積の指標である。
[2] SPAR = シュート投影面積 / 葉面積
この指標(Shoot Silhouette to Projected Area Ratio)はシュート内における葉面積の重り合いの指標であり、シュート内においていかに効率的に葉を光に呈しているかを表す。
[3] LMR = 葉乾重 / シュート乾重
この指標(Leaf Mass Ratio)はシュート内における葉への物質投資の割合であり、シュート乾重(葉+枝軸)に対する同化器官への物質投資の割合を表す。
[4] SAM = シュート投影面積 / シュート乾重
この指標(Shoot Area per Mass)はシュートへの物質投資(枝軸を含む)あたり実現した光獲得面積の指標である。樹冠下部のシュートは上部のシュートに比べて少ない物質投資で高い光獲得面積を実現しているため、高い光獲得効率を示す(SLAやSPARの値が高い,図1)。また、上記の指標の間には以下の関係があり、葉から枝までの様々な形態レベルにおいての光獲得効率の相互作用を表している:
[5] SAM = SLA · SPAR · LMR

針葉樹シュートの形態と光合成速度の関係解明 
光合成測定器(LI-6400, 米国LiCor社)を用いて様々な樹種のシュートの光合成速度(A)を測定する。光合成速度は葉やシュートの乾重、葉面積、投影面積あたりに換算し、物質量や光獲得面積あたりの光合成速度を定量的に評価する。
[6] ANDW = A / 葉乾重
葉乾重あたりの光合成速度は葉への物質投資あたりの光合成速度を表す。
[7] ANA = A / 葉面積
葉面積あたりの光合成速度は葉の光獲得効率が高い(SLAが大きい)ほどANDWに対して低くなる。
[8] ASSA = A / シュート投影面積
シュート投影面積あたりの光合成速度はシュートの光獲得効率が高い(SPARが大きいほど)ほどANAに対して低くなる。樹冠下部のシュートは上部のシュートに比べて最大光合成速度が低いが、光獲得効率が高いため弱光下での光合成速度は相対的に高い(図2)。形態的可塑性が高く、光獲得効率の高いシュートを持つ樹種では、樹冠の上部から下部まで無駄なく光を利用することができる。
図1:エゾマツの樹冠上部(上段)および下部(下段)のシュートと葉の断面の形態 図2:アカエゾマツの樹冠上部(赤)および下部(青)シュートの光合成速度(シュート投影面積あたり) 
成果となる論文・学会発表等