共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

昆虫のストレス応答機構
新規・継続の別 新規
研究代表者/所属 佐賀大学農学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 早川洋一

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

吉賀豊司 佐賀大学農学部 助手

2

島田公夫 北大低温研

研究目的  本研究では、既に、ストレス応答性が明らかになっている昆虫サイトカインGBPの遺伝子発現調節機構について解析すると共に、種々の昆虫(ヨトウ、ゴミムシダマシ、ショウジョウバエなど)から新規ストレス遺伝子を同定する。特に、それぞれの昆虫が備えているストレス応答性の生理的現象(休眠、相変異、擬死など)に直接関係するストレス遺伝子の同定を目指す。そのために、先ず、ストレス応答を定量的に測定する方法を確立し、種々のレベル(強から弱)のストレスによって発現誘導される遺伝子を同定する。さらに、同定された遺伝子の発現と上記生理的現象の誘導における相関関係の有無について検討する。
  
研究内容・成果  本研究では、?ストレス応答性遺伝子解析と?その下流に位置すると予想される脳内生理活性物質(X因子)の単離・構造決定という2種類の研究を並行して進めた。
 ? キイロショウジョウバエ幼虫を用い、種々のストレス条件下(温度、振動、忌避物質など)にその発現が脳神経細胞内で有為に上昇する遺伝子の同定に重点を置いた。分析にはディッフェレンシャルディスプレイ法を用いた。ストレス強度は、色素含有人工飼料の摂食量の測定によって定義した食欲を指標にして、致死的レベルの3から微弱の1まで3段階にランキングし、それぞれのレベルのストレスで特異的に発現上昇する遺伝子の同定を目指した。本研究ではまず強度のストレス(10時間以内に死亡)条件に重点を置いて解析した結果、ストレス状況下で転写レベルが上昇する遺伝子としてCG14686遺伝子の同定に成功した。この機能未知遺伝子は、分子内に細胞膜貫通ドメインを有し、細胞内と予想される領域にシステイン残基が4個、さらに、そのリン酸化も期待できるチロシン残基が6個含まれている。こうした構造から、本遺伝子の細胞内シグナルトランスデューサーとしての生理機能を期待している。また、本遺伝子は、高温、忌避物質への暴露、さらに、寄生バチによる寄生によっても明らかな転写レベルの上昇が観察されることから、ストレス全般で中枢神経細胞内で発現が上昇する遺伝子であると結論付けられる。
(b) 個体死に先だって脳内で濃度上昇が観察されるカテコールアミン様X因子を発見した。本研究によって、ストレスによって当X因子が(ドーパミンとして換算した濃度)が4 pmol/brain以上に上昇したテネブリオ幼虫では、10時間以内に致死率が100%に達することが確認できた。したがって、個体死を誘起する大規模な神経細胞死に直接関与しているものと期待しており、ドーパミンともに重要な脳内生理活性因子である可能性が高い。今後、殺虫効果が認められないストレス条件下においても、脳内X因子の濃度と個体死の正確な相関関係を求める。これにより、対象昆虫のストレス度が死に至るレベルかどうかを迅速かつ正確に把握することが可能となり、新規殺虫剤開発や特定害虫の薬剤耐性試験に幅広く活用され得るものと期待できる。

  
成果となる論文・学会発表等 1) Tsuzuki, S., Sekiguchi, S. and Hayakawa, Y. (2005) Regulation of growth-blocking peptide expression during embryogenesis of the cabbage armyworm. Biochem. Biophys. Res. Commun. 1078-1084.
2) Ninomiya, Y., Tanaka, K. and Hayakawa, Y. (2006) Mechanisms of black and white stripe pattern formation in the cuticles of insect larvae. J. Insect Physiol. 52, 638-645.
3) Hayakawa, Y. (2006) Insect cytokine growth-blocking peptide (GBP) regulates insect development. Appl. Entomol. Zool. 41, 545-554.