共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

低温環境における原油分解微生物群衆及び分解機能の解析
新規・継続の別 継続(平成17年度から)
研究代表者/所属 北大低温研
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 福井学

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

濱村奈津子 モンタナ州立大学 主任研究者

2

東岡由里子 北大低温研

研究目的 原油は地球環境を広く汚染している汚染物質の一つであり、特に寒冷圏汚染現場の浄化には低温環境に適応した固有の微生物群が重要な役割を果たすことが報告されている。前年度に実施した北海道とモンタナ州(アメリカ)の非汚染土壌を用いた原油分解実験の結果、両方の土壌とも低温環境下(4度)での顕著な原油成分分解能が確認された。分解に伴う微生物群衆構造の変化を16S rRNA遺伝子のDGGE解析で調べた所、分子系統学的に異なる微生物群が北海道とモンタナ州土壌より検出された。そこで本研究では、これら寒冷土壌中の主要な原油分解菌の機能を解明し、in situで分解に関与している機能遺伝子を決定することを目的とする。
  
研究内容・成果 17年度に実施した北海道でのサンプリングにより採取したサロベツ及び石狩の非汚染土壌をモンタナ州の土壌とともに原油分解実験に用いたところ、低温環境下(4度、10度)での原油成分分解能が確認された。これらのmicrocosmより、分子系統学的手法で特定された環境中で原油分解を担う微生物をDirect plating法を用いて単離した。4度で最も高い分解活性を示したmicrocosm中の主要なアルカン分解菌であるグラム陽性菌のRhodococcus sp. (SB121 株)とグラム陰性のPseudomonas sp. (SB146 株)の単離に成功した。同様の原油分解実験を室温で行ったところ、グラム陽性菌のRhodococcus sp.のみが主要な分解菌として検出されたことから、低温下では低温により適応したグラム陰性菌が競合して存在することが示唆された。また、この2株(SB21株とSB46株)の温度適応生育曲線を調べた所、グラム陽性菌SB121株の生育は4度で著しく阻害されたのに対し、グラム陰性菌SB146株は4度と25度でほぼ同レベルに生育し、低温環境により適応していることが明らかになった。
低温環境で原油分解に関与している微生物群を機能遺伝子レベルで特定するため、主要原油成分であるアルカンの分解に関与する酵素遺伝子(alkB)をターゲットにしたPCR法を開発した。異なる分子系統に属するアルカン分解酵素の検出を可能にするため、それぞれの分子系統グループに特異的なプライマーを設計した。このプライマーを用いる事により、低温原油分解土壌中からグラム陽性菌Rhodococcus及びグラム陰性菌Pseudomonasに特異的なalkB遺伝子が検出された。また in situ における分解機能遺伝子の多様性をDGGE解析とクローン解析で調べた所、RhodococcusのalkB遺伝子には非常に多様な遺伝子タイプが存在するが、Pseudomonasでは一種の遺伝子タイプが優位に存在していることが示された。環境中から主要に検出されたPseudomonasのalkB遺伝子は、単離されたグラム陰性菌SB146株のアルカン分解遺伝子と一致した。また、SB146株のalkB遺伝子は他の中温性菌PseudomonasのalkB遺伝子とはやや低い相同性(〜88%)を示し、より低温環境に適したアルカン分解酵素である可能性が示唆された。
本研究により、土壌中の原油分解微生物の優位的選択において、温度が重要な環境要因であることが確認された。また、分子学的手法と培養法を用い、低温環境下で高い活性を示す原油分解菌及び機能遺伝子を特定できた。
  
成果となる論文・学会発表等