共同研究報告書提出

共同研究報告書

研究区分	一般研究
研究課題	氷天体のテクトニクスと衝突地形に関する研究
新規・継続の別	継続（平成17年度から）
研究代表者／所属	名古屋大学大学院環境学研究科
研究代表者／職名	助教授
研究代表者／氏名	荒川政彦

研究分担者／氏名／所属／職名
	氏　　名	所　　属	職　　名
1	岡本千里	名古屋大学大学院環境学研究科	博士課程後期2年
2	村澤佳奈	名古屋大学大学院環境学研究科	博士課程前期2年
3	保井みなみ	名古屋大学大学院環境学研究科	博士課程前期1年
4	山本哲生	北大低温研

研究目的	火星や氷衛星の表層には氷関連物質が変形・破壊してできた地形が数多く存在する。良く知られているように火星表面は砂丘で覆われており、砂嵐も頻繁に起こる。それゆえ、両極の極冠に存在する氷床には多量の砂粒子が含まれる。また中緯度域には凍土や岩石氷河など氷・岩石混合物から成る表層構造がある。一方、氷衛星の氷地殻は表面の反射スペクトルの類推から、氷・岩石混合物であると思われている。そこで、火星や氷衛星のテクトニクスを研究する上で氷・岩石混合物の強度や流動則を明らかにすることが重要である。今年度の研究では、氷の流動則に対する固体微粒子の効果をその濃度依存性を中心に系統的調べた。
流動則のべき指数nのシリカ含有率依存性
研究内容・成果	実験試料は氷粒子（直径0.3～1mm）と球形のシリカガラスビーズ（直径1μm）を混ぜて作成した。含有率は1、10、30、50wt.%である。試料は2つの方法で作成した。一方は、氷粒子・シリカガラスビーズの混合物に水を加えて押し固める凍結試料（以下、f.s.）作成法、もう一方は、氷粒子・シリカガラスビーズの混合物を約50MPaまで圧縮させる圧密試料（以下、p.s.s.）作成法である。また、両作成方法を用いて0wt.%の試料も作成した。全ての試料は円筒形である。低温研に設置された変形試験機を用いて行った。室温は-10℃で、試験は等歪速度一軸圧縮実験を行い、歪速度範囲は2.2x10^-6 s^-1から2.9x10^-3 s^-1とした。同じ含有率・内部構造の試料を用いて歪速度を変えた実験を行い、得られた応力―歪み曲線でみられる最大応力と歪速度の関係から、各々の流動則（dε/dt=A･σ n；dε/dtは歪速度、σは最大応力、Aとnは流動則パラメータ）を求めた。その結果、流動則は含有率と内部構造の違いで系統的に変化することが分かった。特にベキnは含有率と共に増加し、純氷から50wt.%の間でf.s.で約2倍（図1）、p.s.s.においては約3.5倍大きくなることが分かった。また今回の歪速度範囲では、f.s.の方がp.s.s.より強度が大きくなり、特に含有率が10-50wt.%では歪速度10^-4s^-1で約1.5～3倍異なることが分かった。氷・固体粒子混合物の変形実験を行った先行研究の結果と本研究の結果を比較した。比較したのは強度の含有率依存性である。その結果、本研究結果を用いて先行研究の結果の不一致の理由を定性的に説明することができた。すなわち、歪速度によって強度の含有率依存性が系統的に変化することが不一致の主な原因である。さらに、先行研究の結果で見られるシリカ含有率に対する複雑な強度変化の振舞いは、流動則におけるベキnの含有率依存性に対応していることが予測された。最後に、Mangold and Allemand (2001)の火星lobate debris apron流動モデルに本研究結果を適用した。彼らは流動則のベキnを用いてlobate debris apronの形状モデルを計算し、その結果とMOLAの観測結果を比較している。純氷（n=3）と完全塑性体氷（n=∞）を用いた計算結果から、lobate debris apronの形状は完全塑性体の結果とよく一致すると結論づけた。本研究の結果を用いて計算したところ、含有率が大きくなるほど計算結果は観測結果に近くなった。そして、p.s.s.の50wt.%のベキnは10.0であり、最も良くMOLAの地形データを再現した。
流動則のべき指数nのシリカ含有率依存性
成果となる論文・学会発表等	Yasui， M. and M. Arakawa. Mechanical strength and flow properties of ice-silicate mixture depending on the silicate contents and the silicate particle sizes， in Physics and Chemistry of Ice (Royal Society of Chemistry， Cambridge， England)， in press. 2007 保井みなみ，荒川政彦「固体粒子を含んだ氷の力学的性質：粒子濃度とサイズ依存性に関する実験的研究」日本地球惑星科学連合2006年大会（幕張）2006年5月 Minami Yasui and Masahiko Arakawa， Mechanical strength of ice-silicate mixture depending on the silicate contents and the silicate particle sizes， Fourth Mars Polar Science Conference (Davos) 2006年10月 Minami Yasui and Masahiko Arakawa， Mechanical strength and flow properties of ice-silica mixture depending on the silica contents and the silica particle sizes， Proc. 39th ISAS Lunar and Planetary Symposium， inpress， 2007