共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

電磁誘導法を用いた変形氷の氷厚及び内部構造の観測
研究代表者/所属 海上技術安全研究所
研究代表者/職名 上席研究員
研究代表者/氏名 宇都正太郎

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

舘山一孝 北見工業大学 助手

2

下田春人 海上技術安全研究所 主任研究員

3

白澤邦男 北大低温研 助教授

4

豊田威信 北大低温研 助手

研究目的 北海道沿岸オホーツク海では動的な変形作用を受けた氷盤(変形氷)が厚い海氷のほとんどを占めると考えられ、面積では海氷全体の1/4程度であるが、体積では70%に達するとの試算もある。しかし変形氷の厚さを広域で観測し得る手法は非常に限られている。本研究では変形氷の厚さ及び内部構造の観測に対する電磁誘導(EM)法の有効性を検証することを目的とする。このため単一周波数型及び多周波数型EMセンサを用いて変形氷盤上での観測を行う。単一周波数型EM法による変形氷厚推定アルゴリズムの精度を検証し、アルゴリズム改良を進めるとともに多周波数型EM法によってボイド等の内部構造を含めた氷厚推定の可能性を検討する。
Fig.1 2004年2月(○)と2005年2月(●)の氷厚確率密度分布の比較 Fig.2 多周波数型EMセンサGEM-2による氷厚推定結果とドリリングによる実測結果との比較 
研究内容・成果 (1)単一周波数型EMセンサ
低温科学研究所を中心に1996年以降、巡視船「そうや」による海氷観測研究が実施されている。2004年2月からは単一周波数型EMセンサ(EM31/ICE)による氷厚観測を開始し、2006年2月で3年目を迎えた。オホーツク海では動的な変形作用による海氷の成長が卓越することが知られている。変形氷の厚さを単一周波数型EMセンサの出力から推定するためには、海氷内部の構造の影響を適切にモデル化する必要がある。そこで一次元多層モデルによる理論計算に海氷コアデータの分析結果及び現地でのキャリブレーション結果を組み合わせることによって、変形氷を含む海氷の厚さを推定するアルゴリズムを昨年度に提案した。本年度は2005年2月の「そうや」観測で取得したデータを組み込んでアルゴリズムの改良を進めた。本アルゴリズムによる氷厚推定結果を他の手法による観測データと比較したところ良好な一致を得た。さらに精度検証を進めるために2006年の観測ではドリリングによるトランセクト観測を計画したが、流氷の勢力が弱く適切な氷盤に遭遇することができなかった。2004年及び2005年に得られた氷厚分布の確率密度関数から厚さ0.4〜0.6m及び0.9〜1.1mの範囲にピークがあることがわかった(Fig.1)。前者はこの海域における平坦氷の典型的な厚さであり、従来からの知見と一致する。後者は新しい知見であり、比較的変形度の低い海氷の典型的な厚さであると考えられる。本アルゴリズムには基本的に汎用性があり、海氷の内部構造パラメターを入れ替えることによって任意の季節海氷域に適用することが可能である。
(2)多周波数型EMセンサ
多周波数型EMセンサでは海氷の内部構造パラメターの一部を変数として扱うことが原理的に可能であり、汎用性の高い観測が期待される。そこで多周波数型EMセンサ(GEM-2)をサハリン北東岸チャイボ沿岸(2005年4月)及び知床ウトロ地区沿岸(2006年3月)での観測に利用した。GEM-2を海氷の観測に用いるのは前年度にサロマ湖で行われた予備的な観測を除けば初めてであり、多くの面で試行錯誤の段階にあった。本観測を通して、観測周波数の合理的な選定方法、観測データに及ぼすドリフト影響の評価、観測データに及ぼすノイズ影響、観測データの一次元多層モデルによるインバージョン手法等について多くの知見を得ることができた。残念ながら観測海域には変形氷が存在しなかったため、本手法による変形氷の内部構造推定の可能性を検証することはできなかった。一方で海水の電気伝導度を概ね推定できること、浅水域でも海底の電気伝導度を考慮したインバージョンモデルを用いることによって氷厚を精度良く観測できることがわかった。観測結果の一例をFig.2に示す。知床ウトロ地区における観測では沖合の海氷は全て流出していたが、沿岸に僅かに残った変形氷盤上での観測を行うことができた。詳細な解析は今後行う予定である。
Fig.1 2004年2月(○)と2005年2月(●)の氷厚確率密度分布の比較 Fig.2 多周波数型EMセンサGEM-2による氷厚推定結果とドリリングによる実測結果との比較 
成果となる論文・学会発表等 宇都正太郎、岡修二、瀧本忠教、下田春人、豊田威信、白澤邦男、舘山一孝、船載型電磁誘導センサによるオホーツク海南部における氷厚観測 第2報(2005)、2005年度日本雪氷学会全国大会講演予稿集、226
Uto, S., T. Toyota, H. Shimoda, K. Tateyama and K. Shirasawa. Ship-borne Electromagnetic Induction Sounding of Sea Ice Thickness in the South Okhotsk Sea, Annals of Glaciology 44 (to be published)