共同研究報告書
研究区分 | 一般研究 |
研究課題 |
極域における海面乱流フラックスの評価 |
研究代表者/所属 | 岡山大学理学部 |
研究代表者/職名 | 教授 |
研究代表者/氏名 | 塚本修 |
研究分担者/氏名/所属/職名 | |||
氏 名
|
所 属
|
職 名
|
|
1 |
石田廣史 | 神戸大学海事科学部 | 教授 |
2 |
藤吉康志 | 北大低温研 | 教授 |
研究目的 | 地球の気候変動にとって大きな意味を持っている海洋の役割を精度良く評価するためには,大気と海洋との相互作用,とりわけ海面を通して輸送される熱や水蒸気などのフラックスを正確に測定することが不可欠である。また,地球温暖化に伴って注目されている二酸化炭素の海洋による吸収や放出量の評価も依然として不確定要素が多い。 これらの問題に対して,船舶を用いた渦相関法による海面フラックスの評価は重要な研究テーマであり,特にこれまでほとんどデータの得られていない極域での評価が急務である。 本研究は貴研究所と共同でより高精度の海面フラックスを評価し,気候変動解明に大きく貢献することが目的である。 |
|
|
研究内容・成果 | 船舶を用いた渦相関法による海面フラックスの評価を継続して実施すると同時に,これまで得られている観測データ,特に北極域におけるデータ解析を中心に研究を進めた。これまでの北極域における海面フラックス観測では,地球温暖化に深く関わる二酸化炭素フラックスの評価が大きな問題となった。つまり,従来の大気と海洋の濃度差から経験的係数を乗じてバルク法で求めるフラックスと渦相関法によるものが大きく異なっている,という問題があった。本研究ではこの原因を解明するために,他の様々な手法によって海面二酸化炭素フラックスの評価を試みた。 1つは渦相関法の中でもオープンパス法と呼ばれる本研究グループが実施している方法のほかに,クローズドパス法という空気をチューブで測定経路に導入して二酸化炭素濃度変動を測定するものである。オープンパス法では測定経路が直接外気にさらされているので,乱流変動を厳密に測定できるが,他の条件が混入して様々な補正が必要になるといった問題を含んでいる。一方クローズドパス法では空気を吸引するために乱流変動が時間遅れで測定され,さらにチューブの中で変動が減衰するという問題がある。本研究ではそれらの問題をできるだけ明確にして可能な補正を施し,両者の結果を様々な条件で比較した。その結果,陸上の植生のように二酸化炭素変動の大きな地表面では,両者の結果は非常に良く一致することがわかった。しかし,海洋上では二酸化炭素変動の大きさは1桁以上小さくなり,これにクローズドパス法のチューブの中での変動の減衰が加わると,どうしても二酸化炭素フラックスを過小評価してしまうことがわかった。 もう1つの方法は大気中の二酸化炭素濃度の鉛直分布からフラックスを求める方法である。海洋地球観測船「みらい」の船首部分に鉛直分布測定の空気サンプリング装置を設置して,渦相関法の観測と並行して観測をおこなった。その結果海面近傍上に有意な濃度勾配を検出することに成功し,これをもとにしてプロファイル法から二酸化炭素フラックスを評価した。その結果は渦相関法の結果よりはやや小さいものの,バルク法による値に比べて1桁以上大きな値が得られた。この方法は有望な方法として期待できることがわかり,次年度にはこの手法を海面と大気の濃度差が最も大きいと期待できる北極域での航海に応用する計画である。 また,海面熱収支評価のために,渦相関法で得られた顕熱・潜熱フラックスとバルク法で得られた顕熱・潜熱フラックスを比較を行った。北極域では海面温度が0℃付近と非常に低いので海水の蒸発による潜熱フラックスは非常に小さく,顕熱フラックスの寄与が大きい。バルク法でもこのような状況はよく再現されていることがわかった。 これらの研究結果は8月25日(木)に北大低温研研究集会「北極海の雲システム」をはじめ日本気象学会,みらいシンポジウムなどで報告した。 |
|
|
成果となる論文・学会発表等 | Takahashi,S., F.Kondo, O.Tsukamoto, Y.Ito, S.Hirayama, H.Ishida:On-board Automated Eddy Flux Measurement System over Open Ocean,SOLA, Meteorological Society of Japan, Vol.1 037-040. doi: 10.2151/sola,2005-011 伊藤 翼,近藤文義,塚本 修:海面乱流フラックスによる大気-海洋間のCO2交換量測定,2005年度日本気象学会関西支部第1回例会講演要旨集,106,1-4 渡辺千香子,近藤文義,岩田 徹,塚本 修,山本 晋:海洋地球観測船「みらい」におかる海面CO2フラックス測定,2005年度日本気象学会関西支部第1回例会講演要旨集,106,9-12 近藤文義,塚本 修,渡辺千香子,岩田 徹:Open-Path及び Closed-Path分析計を用いた渦相関法による海面CO2乱流フラックス,海洋研究開発機構,第9回みらいシンポジウム,パシフィコ横浜(横浜),平成18年2月24日 諏訪祥士,近藤文義,塚本 修:渦相関法とバルク法による顕熱及び潜熱フラックスの算定,-みらい乱流データとトライトンブイのデータによる比較観測-,海洋研究開発機構,第9回みらいシンポジウム,パシフィコ横浜(横浜),平成18年2月24日 |