共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

雪氷コアを用いた北太平洋の気候変動復元II
研究代表者/所属 総合地球環境学研究所
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 白岩孝行

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

的場澄人 北大低温研 助手

2

齊藤隆志 京都大学防災研究所 助手

3

幸島司郎 東京工業大学 助教授

4

東久美子 国立極地研究所 助教授

5

瀬川高弘 国立極地研究所 研究員

6

白岩孝行 総合地球環境学研究所 助教授

7

金森晶作 北大地環研 博士課程1年

8

安成哲平 北大地環研 博士課程1年

9

佐藤 建 北大地環研 修士課程1年

10

戸井田 武 北大地環研 修士課程1年

研究目的 本研究は、2002年に北米ローガン山、2004年に北米ランゲル山で掘削された200m級の雪氷コアを物理・化学・生物学的に解析し、北極圏の北太平洋域で生じる十年〜数十年スケールの気候振動、過去数百年程度の古環境・古気候を高時間精度で復元することを目的とする。特に着目する点は、雪氷コア中に記録される風送塵、微量金属、イオン種の経年変動である。これらの物質は大気を通じて輸送されるが、北部北太平洋において海洋の一次生産を律速する重要な物質と考えられている。これらの物質の堆積フラックスを氷コアから復元することにより、気候・大気輸送物質変動と海洋生態系の変動を関連付けることが本研究の最終的な目的である。
  
研究内容・成果  2005年の共同研究においては、ランゲル山のコアについて、表層から深度100mまでの解析・分析を実施した。内容は、水素同位体比(0-50m)、主要イオン(0-50m)、ダスト濃度(0-80m)、X線精密密度(0-100m)、トリチウム(0-50m)である。微量金属濃度については、ローガン山のコアについて測定した。
 以下、上記の解析・分析から明らかになったことを箇条書きでまとめる;

1.ランゲル山コアの0-50mの深度では、水素同位体比、ダスト濃度、トリチウム濃度に明瞭な季節変動が見出された。濃度のピークは水素同位体比が夏、ダスト濃度とトリチウムが春と判断された。

2.ランゲル山コアのX線精密密度の変動は水素同位体比などに代表される季節変動とは一致しない。しかし、X線精密密度の深度方向への偏差値は、水素同位体比の変動と良く一致し、水素同位体比の重いピークに偏差の小さいピークが重なる。このことは、春から夏にかけて生じる間欠的な降雪が密度変動を大きくし、秋から冬にかけての連続的な降雪が密度変動を小さくしていると考えられ、密度のような物理シグナルでも季節変動を記録していることが明らかとなった。

3.ランゲル山コアのダスト濃度は春に高く、その他の季節に低い季節変動を示す。ダストの起源は黄砂(0.52-1.00マイクロメートル)と局地起源(1.00-8.00マイクロメートル)の2種が識別でき、後者はランゲル山の北クレーターからもたらされる火山性噴出物と考えられた。前者のフラックスは2000年以降増加傾向にあり、これは日本で観測された黄砂現象の増加傾向と一致する。

4.ランゲル山コアのトリチウム濃度は明瞭な季節変動を示し、濃度のピークが晩春に現れる。この変動は対流圏と成層圏の物質交換に起因すると考えられ、春の低気圧性擾乱の指標になる可能性が見出された。

5.ランゲル山の主要イオンには火山の影響が見られた(例えばCa, nssSO4, Cl)。一方、黄砂(Ca)や山火事(NO3)と思われるシグナルも現れており、現在解釈をつめている。Naの年フラックスは冬のPDOインデックスと良い相関があり、長周期気候振動の指標となることが示された。

6.微量金属分析はローガンコアの1980-2000年にかけて実施された。年間の鉄フラックスは数mg/平方mから80mg/平方m程度で変動しており、その原因として黄砂と火山噴出物があることが示された。

7.ローガン山と北部北太平洋の西側に位置するウシュコフスキー山の両方で得られコアの涵養速度を比較したところ、逆相関の関係が認められ、これがPDOと連動していることが明らかとなった。
  
成果となる論文・学会発表等