共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

針葉樹の環境適応について
研究代表者/所属 長岡工業高等専門学校
研究代表者/職名 助教授
研究代表者/氏名 柴田勝

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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田中亮一 北大低温研

研究目的 本研究の目的は、針葉樹の環境適応機構について明らかにすることである。モミおよびキャラボクの針葉片を用いて光合成活性・クロロフィル蛍光・色素組成(特に針葉樹およびパイオニア樹木の葉片に比較的大量に含まれているα-カロチン)を測定することにより、季節的な温度・光への適応機構を調べた。葉緑体のplastoquinone(PQ)、ミトコンドリアのubiquinone(UQ)は各オルガネラでの電子伝達の主要素であり、そのredoxは電子伝達活性を反映している。このために、葉緑体以外のオルガネラでの過剰還元力の消去について調べるために、PQ, UQredoxの高感度、同時測定法について検討を行った。
  
研究内容・成果  草本植物の葉にはほとんど含まれていないalpha-carotene(a-Car)は、針葉樹の葉片には全Car(a-Car+beta-Car)の15%以上がa-Carであり、さらに、a-Carはb-Carと置換する形で存在しており、さらに、a-Carとlutein量が一定であることが一昨年の本共同研究により示されている。これらのことから、a-Carを中心として年間の色素組成を変化させることで過剰エネルギーの熱放散を誘導するviolaxanthin cycle(Vio cycle)に関与する色素量が増大するが、実際にNPQ(non-photochemical quenching)との関係は示されていなかった。このため、モミおよびキャラボクを用いてa-Car, Vio cycle色素との関係を調べたところ強光下ではa-CarとNPQとに直線関係が得られ、実際にa-Carを中心にした色素組成変化がエネルギー散逸の制御に重要であることが明らかとなった。さらに、針葉樹では夏緑樹と比較し強光下でのlutein epoxideの含量が高く、寄生植物で報告されているlutein cycleが働いている可能性が示された。
 
 オルガネラ間での物質輸送に基づいたエネルギー(還元力)移動などが植物のストレス回避機構として重要であると認識されているにもかかわらず、野外での環境変化に応答したこれらの相互作用についてはほとんど分かっていない。このことから冬季のエネルギー散逸過程を明らかにするために、光照射下でのミトコンドリアによる過剰電子の散逸過程を葉緑体のplastoquinone(PQ)およびミトコンドリアのubiqunone(UQ)のredoxの同時に測定を行った。本申請研究では高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による多成分キノン分析法を確立し、PQ とUQのredox変化の関係について調べた。主なUQには9と10(UQ-9、UQ-10)およびそれらの還元型(UQH-9、UQH-10)が存在することから、PQの還元型(PQH)と合わせ6成分の測定対象とした。しかし、植物キノン抽出溶液のUQ量はPQ量に比べて非常に少なく、また、分析を阻害する物質の除去を必要としていた。on-line法による濃縮後にカラムによるキノン類の分離後、白金カラムによりキノン類を蛍光性キノールへ還元後に測定を行った。その結果、光強度の違いによるPQの変化に比べてUQ redoxはほとんど変化しなかった。ミトコンドリア呼吸には一般的なcytochrome系とは異なりalterative な呼吸鎖(AOX)が存在する。SHAM, n-PGなどのAOX阻害剤を併用した実験によりミトコンドリア呼吸による葉緑体の過剰エネルギーの散逸がどの程度、UQ redoxに影響を与え、生理的な影響を及ぼすかを調べる必要がある。
  
成果となる論文・学会発表等