共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

寒冷環境に対応した北海道と中部山岳の植物分布の多様性
研究代表者/所属 信州大学理学部
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 佐藤利幸

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

児玉祐二 北大低温研

研究目的 積雪に対応したシダ植物の分布はすでに知られている。北海道では日本海側の西北海道と太平洋側の南北海道にはそれぞれ異なる種群が分布する。南西部(渡島半島)ではそれらの種群が共存する。すなわち渡島半島には相対的に多種が分布することになる。知床半島はオホーツクに面するにもかかわらず70種近くのシダがある。知床半島には西北海道(多雪地域)に多産するヤマイヌワラビ・リョウメンシダ、あるいは高山のシノブカグマも局在し、多雪条件が多種共存を促進していると予想される。そこで中部山岳地域でのシダ植物の分布様式について積雪から比較検討することにした。
  
研究内容・成果  1996〜2005年にかけて長野県を中心にシダ植物分布を調査してきた。約70%の地域でシダ植物密度(約1ヘクタールでのシダ種数)を調査することができた。北海道における多雪地帯に対応したシダ分布の資料をふまえ、中部地方での積雪深さとシダ植物の要素および種密度を検討したところ。長野県の南部と北部に高い多種共存地点が散在する。南部は暖温帯要素の侵入ゆえに多く多種共存は説明しやすいが、北部の多種共存は温量要因では説明しにくい。北方要素を加味するだけでは北部の多種共存は説明しにくい。サカゲイノデやリョウメンシダなど北海道でやや西部に偏る分布をもつ種群が多産することから、積雪分布に対応した、いわば日本海要素?の存在が局所のシダ植物多様性を保障している可能性が高い。長野県の西部山岳(日本アルプス)の調査がまだ不十分であるが、長野県西部の山岳でも多種共存が見られるならば、北海道と同様に多雪がシダ植物の多様性を保障するといえるかも知れない。これまでに長野県の東部の少雪地域では局所シダ植物多様性が低いことだけは確かめられた。中部山岳はいくつものシダ要素が入り込んでおり、多雪要素が保障する種群の選別は容易ではないが、暖地性シダのいくつかが、積雪によって地表面の温度低下がやわらぐことで霜枯れを免れる事実がありそうである。
 これまで数年の共同調査研究を通じて、以下のまとめが可能である。 
 (1)かつて本州では必ずしも明確に区別されなかった日本海側と太平洋側のシダ植物分布が、北海道においてはじめて西部と南部とに分布が明確に区別できることが示されたこと。(2)そのなかのいくつかは知床半島に隔離分布し、その説明に積雪分布が有効であること。(3)本州中部でのより詳しい分布調査、すなわち解像度を高めることで、本州でも積雪分布と対応したシダ植物分布が見えつつある。(4)北海道よりも信州のほうが、積雪による地表面温度低下防止が暖地シダの分布を保障する場合がある。(5)多種共存をささえる要因のひとつに積雪が係わる可能性がある。

  
成果となる論文・学会発表等 佐藤利幸 高山のシダ植物の特性 日本生態学会シンポ「中部山岳の植物群落多様性:増沢」 新潟 2006.3.28