共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

北方林の更新維持機構の生態学的・遺伝学的解析
研究代表者/所属 名古屋産大環境情報
研究代表者/職名 教授
研究代表者/氏名 西村尚之

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

1

星野大介 森林総研東北 研究員

2

川谷翠 名大院生命農学 大学院生

3

戸丸信弘 名大院生命農学 教授

4

山本進一 名大院生命農学 教授・理事

5

原登志彦 北大低温研

研究目的 北方圏の環境変動に対する北方林の役割を科学的に解明するために、北方林の更新維持機構を生態学的に、そして、そのベースとなる現象を遺伝学的に解明する。そこで、共同研究に供される低温研の実験地である大雪山・層雲峡付近(東大雪)の老齢林分内の固定試験地において、低温研・名古屋産業大学・名古屋大学等により長期森林モニタリング調査を行うため、低温研との共同研究が必要である。これにより、北方圏の環境変動に対する北方林の役割が科学的に解明される。
  
研究内容・成果 低温研、名古屋大学、名古屋産業大学等により設置された東大雪北方林の老齢林分内の固定試験地のプロットにおいて、胸高直径5cm以上のすべての成木幹と樹高30cm以上、胸高直径5cm未満のすべての稚樹の毎木調査、さらに、林冠状態、地床の倒木調査が1999年から定期的に行われてきた。本林分の主要構成樹種はエゾマツ、アカエゾマツ、トドマツ、ダケカンバであった。トドマツは稚樹から成木までのどの発育段階でも相対密度において優占していた。一方、トウヒ属のエゾマツとアカエゾマツは胸高断面積合計ではトドマツに比べて優占度が高かった。また、この常緑針葉樹3種のDBH分布はすべて逆J字型を示した。2000年におけるプロット内の胸高直径5cm以上の成木幹は1136本、樹高30cm以上、胸高直径5cm未満の稚樹は6306本であった。樹高2m以上を大サイズ稚樹、2m未満を小サイズ稚樹と定義して、それらの更新特性について調査した結果、針葉樹3種はすべて、倒木に偏った更新様式を持っていることが明らかとなり、特に、エゾマツ、アカエゾマツではその傾向が顕著であった。トドマツの死亡率はトウヒ属の2種よりも高かった。各生育段階への新規加入率では、アカエゾマツが最も低い値を示し、トウヒ属2種に比べて、トドマツの新規加入率が比較的高かった。各樹種の新規加入のプロセスについて更新サイトと林冠ギャップとの関係について検討を行った結果、3樹種とも倒木に新規加入個体が集中していたが、特に、トウヒ属では、小サイズ稚樹段階への新規加入は約95%が倒木上であった。林冠ギャップと新規加入個体との関係については、トウヒ属は林冠ギャップとの関係は明確でなく、トドマツがややギャップに出現する傾向にあり、さらに、ダケカンバなどの広葉樹はギャップ内に新規加入木が偏っていることが明らかとなった。また、Hara et al.(1995 in JVS)により提唱された樹木個体間の競争関係を表す数理モデルを構築して、種内および種間の競争関係について解析を行った。トドマツの成木および稚樹の生長はトウヒ属の樹木に影響されており、激しい一方向的な競争があることが明らかとなった。これに対して、エゾマツ、アカエゾマツは、成木において一方向的な種内競争が検出されたが、成木も稚樹もトドマツからの競争の影響はまったく受けていなかった。以上の結果から、トドマツ稚樹はトウヒ属稚樹より新規加入率は高いが、トウヒ属による競争の影響を受けているため、死亡率が高くなっているのかもしれない。逆に、トウヒ属では、新規加入においてはトドマツに劣っているが、最高樹高がトドマツより高く、成木段階でトドマツに一方向的競争を及ぼす。このように、北方林常緑針葉樹林における林冠構成種の共存は、様々な成長段階での動態特性と樹木幹競争の優劣の違いにより決定されていると結論できた。
  
成果となる論文・学会発表等