共同研究報告書


研究区分 一般研究

研究課題

親潮の力学についての数値実験的研究
研究代表者/所属 大分大学教育福祉科学部
研究代表者/職名 講師
研究代表者/氏名 西垣肇

研究分担者/氏名/所属/職名
 
氏  名
所  属
職  名

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三寺史夫 北大低温研 教授

研究目的 親潮域ならびに北西太平洋には顕著な十年規模の変動があり、それが気候変動、炭素循環、漁場形成等と密接に関係しているため社会的にも重大な関心事となっている。

中でも西岸境界流である親潮の力学の解明が重要である。親潮は千島列島から北海道東岸を南下し、その流量の半分程度は東北沖の混合水域に進入し、黒潮系水と混在する。これらの現象は、近年の数値モデルで再現されつつあるものの、多くの要因が関わるため、現象の力学的過程の理解は進んでいない。本研究では一連の数値実験を行い、親潮のメカニズムの理解を目指す。オホーツク海起源水の影響が近年指摘されていることもあり,その要因にも注目する。
  
研究内容・成果 ○内容
本研究は3つの数値実験からなる。第一に,風成循環モデルを用い,理想化された条件で亜熱帯・亜寒帯循環を表現し,親潮,黒潮,そして両者の合流域の力学過程を検討する。第二に,オホーツク海潮汐混合モデルを用い,理想化された条件で,千島列島における潮汐起因の鉛直混合に生成される海水の,流出過程を調べる。第三に,現実的モデルを用い,オホーツク海と親潮の海水運動を再現し,現象の把握と理解を目指す。以上3つの観点から,親潮についての総合的な解明を図る。

○成果
風成循環モデルでは,親潮への影響が大きいと見られる黒潮とその離岸について検討した。結果として,以下のことがわかった。(1) 海底斜面には,傾圧不安定を抑えることを通して黒潮続流を維持する作用がある。(2) 海底斜面上にみられる最下層の再循環が,黒潮の離岸と沿岸側のよどみ域を伴う流れパターンの実現と維持に重要な役割を果たしている。

オホーツク海潮汐混合モデルでは,以下のことがわかった。(1) 潮汐に起因する鉛直混合が時計回りの循環をひきおこす。(2) その循環パターンには二つのモード,「西進モード」と「海嶺捕捉モード」がみられ,混合が弱い(強い)ときに前者(後者)がみられる。混合強度が中程度のときは,初期値によっていずれかのモードが現れる,という二重解的な特徴がみられる。(3) 二つのモードの出現理由は,特性曲線が西に延びるか局所的に閉じるか,という観点から理解できる。

現実的モデルは,オホーツク海と北太平洋北西部を対象とし,そこでの特徴的な現象を再現するのに成功した。特に,宗谷暖流水からなるクリル海盆の高気圧渦(若土・マーチン渦)について,その位置・時間発展・鉛直構造が十分よく再現されている。

以上のように,不十分な点はあるが,親潮の力学的理解について一定の進展があった。今後の発展が期待される。
  
成果となる論文・学会発表等 Uchimoto, K., H. Mitsudera, N. Ebuchi and Y. Miyazawa, Anticyclonic eddy caused by the Soya Warm Current in an Okhotsk OGCM, submitted to J. Oceanogr.
三寺史夫・中村知裕・西垣肇,海嶺上の強い混合による時計回りの循環の形成,日本海洋学会.2005.9.30.
Mitsudera, H., T. Nakamura and H. Nishigaki, Mechanisms of intensive clockwise circulation in the southern Sea of Okhotsk, 2006 Ocean Science Meeting, 2006.2.23.
西垣肇・三寺史夫,西岸境界流における沿岸側よどみ域の維持メカニズム,日本海洋学会, 2006.3.29.
内本圭亮・三寺史夫・江淵直人・宮澤泰正,Wakatsuchi/Martin渦の形成と宗谷暖流の流量の関係,日本海洋学会,2005.9.28.